第2話 「コスモタワー」
第2話 「コスモタワー」
✣ 2011年2月25日 20時00分 ✣
✣ 住之江区南港東5丁目 南港大橋 ✣
今日はいつもと違う区域の警らを担当している時であった。
才原と吉原は、いつもの203号に乗車し南港方面へ向かっていた。
違う乗務員が担当している区域だが、今日は両方とも体調を崩したらしい。
「吉原さん、僕こっちの方はあんまり詳しくないんですけど・・・」
「大丈夫だよ。こっちは一本道が割かし多いからな。」
「そうですか・・・」
いつもと違う景色に目を凝らしていると、無線機からコール音が聞こえた。
「大阪本部から住之江PS管内移動中の各車両へ。
府咲洲庁舎内に於いて、騒いでいる男性がいる旨の110番通報。
110番受理番号1520、受理時刻20時02分。
近い移動局にあっては、応答願いたい。以上大阪本部。」
咲洲庁舎は、この前府の機能が一部移転されたばかりの施設である。
「吉原さん、咲洲庁舎はここから近かったですよね?」
「そうだな・・・サイレンを鳴らせば5分ってとこかな。」
「じゃあ、本部に一報入れますね。」
吉原が無言で頷くと、無線機に手を伸ばした。
「機動203から大阪本部。現在、南港大橋。現場へ急行する。」
サイレンのスイッチを入れると、アンプからサイレンが鳴り出す。
大橋を下りかけた所で、本部から返答が返ってきた。
「大阪本部了解、至急現場に急行されたい。以上、大阪本部。」
本部からの返答があった所で、パトカーはスピードを上げた。
夜の20時を少し回ったこの時刻は、車通りがとても少なかった。
咲洲庁舎には吉原の見立て通り、5分程で到着した。
「機動203から大阪本部。現着、車両離れます。」
現着の一報を入れて、車両を降りて庁舎内へと向かった。
騒いでいると通報があったのは、水道局のある10階であった。
エレベーターで10階に到着すると、男性と職員らしき人が絡んでいた。
才原と吉原は、慌てて引き離しにかかる。
「何をしているんですか!!」
才原が声をかけると、「あぁ!? 」と言ってこちら側に男性が向き直った。
男性が、「お前誰なんじゃ!!」と声を張り上げて怒鳴ってきた。
才原と吉原は、胸ポケットから警察手帳を提示した。
「大阪府警の者です。一体何があったんですか?」
才原が落ち着かせて改めて聞く。
するとさっきとは違う男性が話し出した。
「それが・・・水道料金の決め方が理不尽だと申されておりまして。」
どうやら、水道料のクレームでも言いに来たらしい。
それに、男性はかなり泥酔しているように見受けられた。
才原が、その男性にある提案をした。
「今日はもう遅いですし、また改めていらっしゃったら如何ですか?」
やんわりと提案をするが、男性は興奮していて耳を貸そうとしない。
それどころか・・・
「お前に用は無いんじゃ!さっさと帰れや、この税金泥棒が!!」と言って、
才原を思いっきり壁に突き飛ばして、転倒させた。
吉原がこれを見逃すはずもなく、手錠を腰ポケットから取り出した。
「才原、時間を取れ。」
「はい、っつ・・・22時16分です。」
「22時16分、警察官に対する公務執行妨害の現行犯で逮捕する。」
手錠が「ガチャ」という音を出して、男の両手に掛けられる。
「才原、大丈夫か?」
吉原がそう言って、手を差しだした。
「まぁ、大丈夫って言っても痛いですけどね・・・。」
才原は立ち上がると、その男を吉原と二人でパトカーに連行した。
パトカーにつくと吉原が男を押さえておき、その間に本部へ一報を入れる。
「機動203から大阪本部。」
口の中を切ったらしく、血が唾液に混じる。
「大阪本部です、機動203どうぞ。」
「受理1520の咲洲庁舎の案件において、男性1名に帰宅を促したところ、
暴行を受けた為、20時16分公務執行妨害で男性を現行犯逮捕した。
被疑者にあっては、少し泥酔しており事情聴取は困難とみられる。」
少しして、本部からの指示が無線から流れる。
「大阪本部了解。被疑者にあっては、最寄りの住之江PSにて留置する。
従って、被疑者を住之江PSに連行されたい。以上、大阪本部。」
「機動203了解、住之江PSに連行する。以上、機動203。」
交信が終わると、車外に出て男性をパトカーに乗せる。
才原は後部座席に男性と座り、吉原は運転席に座った。
パトカーは、赤色灯だけをつけ住之江署へと向かった。
警察署に近づいた所で、男性の意識がはっきりとしてきた。
「ここは・・・・」
「パトカーの中ですよ。」
男性の言葉に才原が優しく答える。
男性は少しして、両手に手錠が掛けられている事に気付いた。
「お巡りさん、僕なんかしたんでしょうか?」
「あなたはね、注意したら僕を壁に思いっきり突き飛ばしたんですよ・・。」
男性は自分の犯した罪にやっと気づいたようだ。
「まぁ、詳しい話は警察署についてからじっくりと話して下さい。」
その言葉に、男性はうなだれた。
数分すると、住之江警察署に到着した。
通用口には連絡を受けた数名の警察官が待機していた。
「それでは、宜しくお願いします。」
吉原がそう言って、手錠を警察署の物と交換する
助手席に座り直すと、パトカーは再び夜の町を警らし始めた。
✣ 同日 22時54分 ✣
✣ 第二方面本部地下車庫 ✣
パトカーをバックで指定の所に駐車すると、点検を始めた。
吉原は、一足先にあがってもらったので1人での点検だ。
空気圧やガソリン、赤色灯などを点検し終わると報告書に記入する。
「以上は・・・とくにないな。よし、判子を押して・・・と。」
報告書をしまうと、パトカーに鍵をかけて上へと上がる。
途中ですれ違った先輩に挨拶をすることも忘れてはならない。
書類などを提出すると、ひとまず仮眠室へ入った。
「今日は、色々あったな~」
一言つぶやくと、才原は夢の世界へと落ちて行った・・・。
警ら報告書(夜警)
2011年2月25日(金)
乗車車両番号/車両所属 203 第2動警ら隊
乗務員 才原 信 吉原 保
本部出庫時刻/本部帰署時刻 19時24分 22時54分
詳細報告 出庫後南港方面を警ら中、本部からの無線を傍受。
現場から近かったこともあり、緊急走行で現場へ急行。
20時05分頃、大阪府咲洲庁舎へ現着。
10階の市水道局へと到着すると、男性2名が揉み合っていた為、
乗務員で引き離す。
その後男性に帰宅を促すと、才原が壁へ押し飛ばされる。
上記事由により、20時16分公務執行妨害で現行犯逮捕。
本部からの指令により、所轄の住之江警察署へ男性を移送。
引き渡し後、再び南港地区の警らに従事する。
南港ポートタウン前交差点で、信号無視の車両1台を検挙。
該当事由は、赤信号を直進したことによるためである。
その後、22時54分車庫に入庫。
その他備考 とくになし。
第2機動警ら隊 才原 信 吉原 保
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