第1話 雨の降る郵便局
第1話 「雨の降る郵便局」
✣ 2011年2月24日 7時50分 ✣
✣ 大阪市住之江区新北島1丁目 第二方面本部 ✣
住之江警察署のすぐ近くに、第二方面本部はあった。
大阪府警察では、府を4のブロックに分けて管轄している。
その1つである第二方面本部は、大正・天王寺・浪速・東成・生野・阿倍野
住之江・住吉・東住吉・平野・西成を管轄する本部がここにある。
ここには、機動警ら隊(自動車警ら隊)の本部もおかれている。
「2月になったら暖かくなると思ってたのに・・・。」
一人呟いているのは、才原 信 巡査である。
昨年、住之江警察署地域課から機動警ら隊に配属されたばかりだ。
才原は乗ってきたバイクを駐輪所に停めると、通用口から中に入った。
✣ 同日 7時53分 ✣
✣ 第二方面本部2階 機動警ら隊分駐所 ✣
才原は階段を2階まで昇ると、廊下の一番奥の部屋の戸を開けた。
「おはようございます!!」
挨拶をすると、室内にいた先輩たちもそれぞれに声を掛ける。
「おぅ才原!! おはよう。」
声を掛けて来たのは、同じパトカーに乗車している 吉原 保 巡査部長だ。
「おはようございます。今日も、宜しくお願いします。」
才原が頭を下げると、照れくさいのか止めろと言って何処かに行ってしまった。
才原も自分の机に荷物を置くと、ロッカー室へと向かった。
部屋の隣のロッカー室には、数人の先輩がいた。
挨拶を交わしながら、自分のロッカーの鍵を開錠する。
「カチャ」
鍵を回すと、心地良い感触が手を伝う。
ロッカーを開けると、冬用の制服が入っている。
制服に着替えると、専用の棚の鍵を開けて装備品を取りだす。
拳銃・警棒・手錠・警笛を装備すると、部屋に戻った。
部屋に戻ると、ちょうど朝礼が始まる所であった。
「総員起立、礼、着席。おはようございます!!」
大隊長の声に合わせ、僕たちもそれぞれ挨拶をする。
「今日の朝礼ですが、予報では昼前から雨が降るそうです。
各自運転には十分に注意し、警らに当たって下さい。
また、車両の整備を怠らぬように・・・。」
大隊長からの朝礼が終わると、車庫へと向かった。
✣ 第二方面本部地下1階 車庫 ✣
パトカーに乗るとまず、ガソリンの量をチェックした。
基本は、前に乗車した隊員が満タンにしておくのが通例だ。
「ガソリン・・・よし、大丈夫だな。」
次にエンジンを掛けて、車両に異常がないか確かめる。
「エンジンオイル・エンジン・・・異常なし、と。」
もちろん、サイレンアンプに赤色灯も確認する。
「ウーウー・・・・」
前面・散光式警光灯の点灯を確認すれば点検は終了だ。
「赤色灯関係・・・良し。」
点検を終えると、積載物の確認に入った。
カラーコーンに赤色誘導灯、さすまた等も積載物の一つだ。
「積載物確認良し。」
全ての確認が終わった事を再度確認して、パトカーに乗り込む。
乗り込んだ際に、パトカーの無線番号なども一緒に確認する。
今日は、吉原さんが運転席でハンドルを握ってくれるそうだ。
助手席でもう一度、フットサイレンが鳴るか確認するとシートベルトを締めた。
「吉原さん、点検終わりました。出庫しますか?」
「そうだな・・・よし警らに出よう。」
吉原さんもパトカーに乗り込み、エンジンを掛ける。
パトカーは、アクセルを踏み込むとゆっくりと進み始めた。
数台のパトカーに続いて車庫から出庫する。
パトカーが29号線に出ると、無線で本部に連絡を取った。
「機動203から大阪本部。警らにつき、無線開局どうぞ。」
「大阪本部から機動203へ。無線開局了解、以上大阪本部。」
無線の開局を確認すると、29号線を進みながら警らルートを確認する。
「今日は雨になるらしいですけど、事件とかなければいいんですけどね。」
「警察は暇であればある程、いい仕事なんだけどな・・・。」
話を交わしていると、早速無線指令が入った。
「大阪本部から各局。
住之江PS管内、強盗事案が発生。現場は、北加賀谷1丁目郵便局。
郵便局員からの110番通報、発生時刻 8時20分。
近い移動は、現場に急行し被疑者の人着等の解析を急げ。以上、大阪本部。」
丁度そちらに向いていたパトカーは急行する事にした。
「機動203から大阪本部。住之江PS管内強盗事案従事どうぞ。」
赤色灯を点灯させ、サイレンのスイッチを入れた。
「ウーウー・・・」
「パトカー赤信号通過します。各車止まって待って下さい!!」
赤信号に進入した時、本部からの返信が返ってきた。
「大阪本部から機動203。現着次第、本部への一報を願う。以上、大阪本部。」
「機動203、了解。以上、機動203。」
サイレンを鳴らし走るパトカーを、数滴の雨が車体を打った。
「ちっ、もう雨が降ってきやがったか・・・」
ワイパーのスイッチを入れると、それに応じてワイパーが作動し始めた。
雨は、段々とひどくなっていった・・・。
現場へは、数分程度で到着する事が出来た。
「機動203から大阪本部。現着、車両離れます。」
無線で本部に一報を入れて、車外に出た。
現場にはまだ警察官が現着しておらず、ひとまず郵便局内へ入って行った。
郵便局内は、閑散としていた。まぁ、仕方のない事ではあるが・・・。
吉原と才原は、局内に入ると警察手帳を提示して声をかけた。
声をかけると、奥の方から郵便局長らしき人が出て来た。
「ご苦労様です。私が局長の、小谷と申します。」
「早速ですが、犯人の人相や衣服などをお話しいただけますか?」
吉原がテンポよく、小谷に聞き込みを始める。
「はい、人相は20代位の若い男性2人という事しかわかりません。
衣服は、2人ともが黒ジャンパーで・・・
1人が作業服、もう1人が緑のジーパン・・だったと思います。」
吉原がそうですか、と相槌を打ちながら才原にパトカーの方を指差した。
吉原が指差した意味を理解した才原は、パトカーへと戻った。
「機動203から大阪本部へ。住之江PS強盗事案の続報。
被疑者は、20代位の若い男性2人組。両方共に、黒ジャンパーを着用。
1人にあっては下、作業服。もう1人は緑のジーパンを着用していた模様。」
無線に一通り話終わった後に、吉原が戻ってきた。
「大阪本部から機動203。被疑者の凶器等の所持はありますか、どうぞ。」
「才原、拳銃らしきものに、刃渡り30cmぐらいのナイフだそうだ。」
吉原さんが聞き込んで来てくれたらしい。
「機動203から大阪本部。被疑者にあっては、拳銃らしきものと刃渡り30cm
程のナイフを所持していた模様。」
数分ほどして、緊急を知らせる無線コールが鳴り響いた。
「至急至急、大阪本部から住之江PS管内移動中の各移動。
8時20分発生の強盗事案に於いて、現時刻を持って緊急配備を発令する。
発令範囲は、住之江PS管内全域と第2機動警ら隊。
被疑者は、黒のジャンパーに作業服と緑のジーパンを着用。
なお、拳銃のようなものとナイフの所持が確認されている。
各員とも、防刃資機材等を有効的に活用し、受傷防止に十分留意されたい。
以上、大阪本部。」
先ほどの事件の緊急配備を知らせる無線であった。
雨にぬれた体をタオルで軽く拭うと、シートベルトをつけ直した。
「よし、付近を警らしてみるか・・・見つかるといいな。」
「そうですね・・・」
吉原はウィンカーを出して、路肩からゆっくりと動き始めた。
車両は、北加賀屋小学校近辺を捜索することにした。
雨の激しさは、一向に衰える気配を見せない。
✣ 同日 9時20分 玉出中学校周辺 ✣
どんどんと北東へ捜索をしている時であった。
無線のコール音が、車内に響いた。
「大阪本部から、住之江PS管内強盗事案従事中の各移動局へ。
現在、住之江管内発生の強盗事案で緊急配備を発令中であったが、
現在時、9時20分を持って住之江PS管内全域の緊急配備を解除する。
なお、各移動にあっては通常警らに戻られたい。以上、大阪本部。」
発生から1時間がたった今では、すぐの確保は無理と踏んだのだろう。
警察力も無限にあるわけではない。
こう言った事もあるのだが、やるせない気持ちは隠せない。
「機動203から大阪本部。無線指令了解、通常警らに戻る。」
才原が本部へ一報を入れると、吉原が一度停車した。
「はぁ~捕まえられんかったか・・・悔しいな。」
「そうですね・・・」
気分を入れ替えると、その周辺の警らを行い午前の巡回を終え、帰署した。
雨は、相変わらず降り続いたままであった・・・。
警ら報告書(午前)
2011年2月24日(木)
乗車車両番号/車両所属 203 第2動警ら隊
乗務員 才原 信 吉原 保
本部出庫時刻/本部帰署時刻 8時17分 10時00
詳細報告 出庫後の8時21分頃、本部からの無線を傍受。
現場から近かったこともあり、緊急走行で現場へ急行。
8時26分頃、現場の北加賀屋1丁目郵便局へ現着。
聞き込み後、その後現着した住之江PS署員に引き継ぎ、
本部の緊急配備に従事する。
9時20分頃、玉出中学校付近警ら中に緊急配備解除。
本部指示に従事し、通常警らへ移行。
その周辺を警ら中に、信号を無視した1台を確保。
10時00分、帰署。
その他備考 とくになし。
第2機動警ら隊 才原 信 吉原 保
読んでいただき、ありがとうございました。
自分の中では、あまり書くことのないことで迷走気味であったかと思います。
正直、自分ではどんな作品かよく分かりません。
なので、感想や意見を書き込んでいただけるとものすごく助かります。
至らない点も多々あるとは思いますが、これからもお付き合いください。