和食大好き!和食クラブ
和食クラブ、普通なら料理のクラブなんてものは、一定の人気を得るはずなのだが……
今このクラブのメンバーは僕と神薙東子先輩の二人だけだ。
なぜなら...
「今日はねりきりを作ろうと思うよ!」
「先輩!」
「何でしょう! 可愛い後輩の石丸君!」
「ねりきりって何でしょうか?」
「わかりません!」
そう、我々は和食を知らないのである!
当然部室には和食の料理本など一冊もない!
しかも、先輩は洋食派、僕は中学まで海外住みなので日本の料理はさっぱりである!
「ねりきりって、先輩、なんだか響きがいいですね」
「おっさっそく日本に慣れていない留学生アピールだな! 万死に値する!」
「何でそうなるんですか」
ともかく、今日の議題はねりきりである。
ちなみに、議題にあがるだけで、その料理自体も作ったり、作らなかったりする。
いやまあ、仮に作ったとしても、だいたい名前から想像して作るしかないのだが……
「石丸君、ともかく"ねりきり"について意見を求む!」
先輩は、早々に思考放棄した。
「先輩。ねりきりという名前から想像するに、まず[ねり]、これは何か練ったものだと考えられます。そして[きり]とつくからには、切るつまりその練ったものを切ることを指すのではないでしょうか?」
「流石、石丸君! 頭がいいですね! 死んでください」
「ありがとうございます! なんでそんなこと言うんですか」
「先輩はね。私より頭のいいひとも、わるい人も大嫌いなんです。分かりますか?」
「なんてコンプレックス!」
まあ、ともかくこれで方向性は決まった。
まず材料集めからだ。部室にある古ぼけてカビが生えた冷蔵庫を開けると、見えるのは腐ったクラムチャウダー、何か黒いものが下へと滞留し始めている牛乳、天然のブルーチーズ、そして異臭を放つはんぺん、もろもろ愉快なメンバー達が目に入った。魚をそのまますり身にしたかったのだが、欠片もないようだ。
しかたなく、一応練物であろうはんぺんを冷蔵庫から引っ張り出し、油を入れっぱなしで放置している鍋の中に放り込んだ。
コンロに火を付ける。
じょばじょばじょば、と下品な音を垂れ流しながら、油がもだえるように跳ね始めた。
「おおっ中々香ばしい臭いがしますね!」
後ろから先輩が待ちきれないと言った感じで、覗き始めた。
「そうでしょう。そうでしょう」
「そうだ! ここにチーズを入れてチーズを入れたらおいしそうじゃないですか」
「流石だ先輩! テストの点は低いのに、こういうときはいいこといいますね」
「うるせえ!」
そう言いながら、先輩は冷蔵庫から天然ブルーチーズを引っ張ってきて、油へと放り投げた。
油はますます苦悶の嗚咽を漏らすかの如く、叫び声のようなパチパチ音をあたりへと響かせた。
やがて、部室内を異臭が覆い始めた。どうやらブルーチーズと油が駄目なタイプの化学反応を起こしてしまったらしい。この世の終わりのような臭いがあたりを漂い、やがて部室の外から苦悶のようなせき込みの音がした。
どうやら外にも漏れ出しているらしい。
「くせえ。おい後輩どうにかならんのか!」
そのとき、ドアをどんどんと叩く音がした。
「おい開けろ!」
この学校で一番厳しい体育教師の尾崎の声だった。
それを察知するとすぐさま先輩は鍵を閉めた。
「おい。お前ら、すぐさまここを開けろ! みんなが迷惑してるぞ!」
やがて教師数人がドアに集まったようで、僕たちの説得にかかり始めた。生徒たちのがやがや声も聞こえる。ドアノブを回す音はいつの間にかドアをギシギシ揺らす音へと変わった。どうやら強行突破を目論んでいるらしい。
それを察知すると先輩はすぐにドアを背にするように立って応戦した。
「お前たちのやっていることは迷惑なんだ。もう学校にくんじゃねえ」
生徒の一人がヤジを飛ばした。
「そんなことない!」
「そんなことないだと! へん。いいか、お前らも正直迷惑だと思ってるよな和食部のこと! そうだよな!」
すると、それに同調したように、ヤジがわああと飛び始めた。
そうだ そうだ 廃部にしろー 馬鹿野郎 消えやがれ 死ねー
中には、先生のヤジも混じっている。
それを聞いて、先輩はふるふる肩を震わせ始めた。
「それでも!」
先輩が声を張り上げた。少しの間しん、とした。
「いいかそれでも、ここは私達の居場所なんだ! お前たちが無下に扱っていいものじゃ! ないんだ!」
「先輩流石に無理ありますよ」
そう僕がフォローすると再びヤジが飛び始めた。
そんなこんなでようやく”ねりきり”が出来た。僕は鍋を素手で掴むとドアを抑える先輩の横についた。
「先輩できましたよ」
「うむご苦労であった。ちとうるさいが」
そうして僕たちは、ドアを背に体育座りをすると、なぜか部室にあった銀箸を使ってその”ねりきり”(誰がなんと言おうと”ねりきり”だ)を口に放り込んだ。
足の爪の垢のようなチーズの匂い、どろどろの油とそれと同化したはんぺんが喉へとへばりついた、とてもじゃないが人間の食べるもんじゃない。
「先輩これ、まずいっすね」
「まずいな! ただ料理とはかくあるべきだ」
先輩が今世紀最大に真面目な顔をして言った。
「あともう一つ」
「ん?」
「先輩。これもしかして、まずいだけのチーズはんぺんじゃないですか?」
「そういう見方もできる」
先輩はなぜか曖昧な表情で答えた。
「おい! あけろ問題児のきち〇いどもめ!」
「死ねー! 食中毒の擬人化ども!」
まだヤジは止まらないようだ。それもひどくなる一方だ。
先生たちがドアをこじ開けようとする振動を背にして、僕たちは嘲るように笑った。




