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そう言ってスカーレットは何を思ったかバッグから金貨が詰まった袋を取り出して私の膝の上に置いた。
「こ、こんなにはいただけません!」
小心者の私は思わず金貨を突き返すと、スカーレットはそれを受け取ってくれようとはしない。
「ダメよ。私にはこれぐらいの価値のある一日だったの。受け取ってちょうだい。それに、あらかじめ値段設定をしていないあなたが悪いのよ?」
スカーレットはそんな事を言って茶目っ気たっぷりに笑ってウィンクをして見せてくる。こんなにも重たい金貨袋をポンと渡してくる金持ち、怖い……。
絶対に返させないぞ、というスカーレットの強い意志を感じて、渋々大金を受け取ろうとして私はふと思いついた。そしてすぐさまそれを実行に移す。
「ではスカーレット様、こうしませんか? 今日のお代はこれだけにして、うちの商品の仕入れの相談に乗ってもらうというのはどうでしょうか?」
そう言って私は袋の中から金貨を数枚受け取って残りをスカーレットに返すと、スカーレットは驚いたように目を丸くした。そして次の瞬間また大笑いしだす。
「あなたって人は! もちろんよ! そんなのいくらでも相談に乗るわ! 本当にそれでいいの?」
「ええ! 今の私にはその方が金貨よりもはるかに価値がある物なので!」
「分かったわ。それじゃあ、商品の事で困った事があったら何でも言って頂戴。必ず役に立つとお約束するわ」
「はい! ありがとうございます」
気前の良いスカーレットに深々とお辞儀をした私は、テニス用品一式を近々送ると約束をして今日の仕事は無事に終わった。




