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そう言って咄嗟に自分の膝を叩くと、それを見てスカーレットが今度は笑い出した。
「いいえ、違うの! こんなにも楽しかった時間、もう随分忘れてたなって……子供みたいにはしゃいで笑ってムキになって、足投げ出して草の上に座ってお茶飲んでまた笑って……どうして忘れてたのかしら……私は、本来の私はこんな風に過ごすのが大好きだったのに」
そう言って涙を拭いながら困ったように笑うスカーレットを見て、思わず私とクリスは顔を見合わせて頷く。クリスの顔が「トドメを刺せ」と物語っている。
「スカーレット様、今日のこの時間はスカーレット様にとって何かを思い出すきっかけになったに過ぎません。この先どんな風にあなたが自分の道を切り開いていくのか、それを決めるのは家ではなくてあなた自身だと思うんです。その為に本当のあなたを決して忘れないでくださいね。だって、本当のあなたはこんなにも笑顔が素敵な女性なんですから。笑わないなんてもったいないですよ!」
「……ヒマリ……」
「それに、もしこの先また迷ったり悩んだり疲れたりしたら、ここへ来て今日みたいに遊んで行けばいいんですよ。私たちはずっとここに居ますから。ね?」
お得意の営業スマイルを浮かべてそっとスカーレットの手に触れると、スカーレットは嬉しそうに頷いて微笑む。
「ええ、そうね……そうするわ。マリーから話を聞いた時、本当は半信半疑だったの。でも……来て良かった。何か胸のつかえが取れた気がする。人生を直してくれるという触れ込みは本当だったのね。私の心は今とても晴れやかだわ」
スカーレットはまた目の端に浮かんだ涙を隠すように指で払い除けると言った。




