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私の提案にスカーレットは目を細めて頷いたが、すぐにハッとして自分のドレスを見下ろした。
「でも、これでは動けないわ」
「大丈夫です! 私の作業着で良ければお貸ししますよ」
「まぁ! いいの!? ぜひやってみたいわ!」
「では早速着替えて行きましょう! クリスー! 作業着一着とラケットとボール出して~!」
私が恥じらうこともなく店舗の奥に声をかけると、クリスが面倒そうに顔を出した。そんなクリスを見てスカーレットは慌てて立ち上がって美しすぎるカーテシーを披露する。
「自分で出せよな~って、何だ、客もう来てんのか。何? 今からテニスすんの?」
「そうなの。テニスコート空いてるかな?」
「どうだろな。最近テニスめっちゃ人気だからな。空いてなかったら庭にネット張れば?」
「そうだね。スカーレット様もその方が安心だもんね。それじゃあクリス、私は作業着とラケットの用意するからあんたは——」
「はいはい、ネットの準備だろ」
それだけ言って部屋を後にしたクリスを見て、スカーレットが両手で顔を抑えて椅子に崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫……はぁ……美しすぎない? クリス様……」
「う、美しい……?」
毎日憎まれ口を叩かれているおかげでクリスの事を美しいなどと思った事もない私がポカンとしていると、スカーレットはガバリと顔を上げて早口で話し始めた。
「ええ、とても! 高位妖精様はどの方も人間離れした美しさだと言われているけれど、その中でも第五王子は飛び抜けて美しいと言われているの! まさか生きている間にご尊顔を拝める日がくるなんて!」