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不思議そうなスカーレットに、私がクリスと大喧嘩をして互いにフライパンを持ってボールの打ち合いを始めた事を伝えると、スカーレットが一瞬目をまん丸にして次の瞬間、物凄く豪快に笑い出した。
「ス、スカーレット様?」
そんなに笑う? ていうか、淑女ってこんな大口開けて体折りたたんで笑うの?
思わずそんな事を考えた私とは裏腹に、ようやく笑い終えたスカーレットは目尻の涙を拭いながら言った。
「はぁ、久しぶりに大笑いしたわ。私ね、秘密なのだけれど本当は凄く笑い上戸なの。普段は頑張って抑えているのだけど、ここでは気にしなくても良いのよね?」
「もちろんです。笑いたい時に笑って泣きたい時に泣いて怒りたい時に怒ってください」
客の懐に潜り込む。それこそ接客の極意だ。むしろそれをして始めて顧客の心を鷲掴み出来るのだ。
スカーレットは私の言葉に安心したように微笑んでゆったりと座り直した。
「本当はね、ここに来るまで迷っていたの。マリーからあなたの噂や評判は聞いていたけれど、私達貴族は色んなしがらみのせいで自由に振る舞う事が出来ない。そう教育されてきたのよ。でもね、そういう生活はやはり心に支障をきたすのね。最近刺繍をしていてもため息ばかりつく私にマリーがここを勧めてくれたのよ」
「そうだったんですか! マリアンヌ様からスカーレット様に合う化粧品を選んであげて欲しいとお聞きしていたので、てっきり化粧品を見に来たのだと思い込んでいました」