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マリアンヌから聞いた情報によると、家柄は男爵家らしいが、商家の一人娘で伯爵家ほどの資産があるらしい。とにかくお金持ちだ。
スカーレットは私を上から下まで眺めて小さく笑った。そんなスカーレットの反応に思わず私は身構えたのだが、私の思いとは裏腹にスカーレットはたっぷりとしたドレスの裾を摘んで言う。
「あなたのドレス、動きやすそうでいいわね。見てちょうだい、このドレス! 何にも出来やしないのよ!」
「あ、そっち……?」
どうやらスカーレットは私を品定めしようとした訳ではなくて、私の仕事着を見ていたようだ。
「そっち、とは?」
「いえ、すみません! ですがよくお似合いですよ?」
「いくら似合っていても私は本来こういうドレスは好きではないの。けれど世の正しい淑女はこういう恰好をしなければならないっていつの間にか決まっていたのよね」
「スカーレット様は本当はどんなドレスが良いのですか?」
「そうね……私、体を動かすことがとても好きなの。最近庶民の間で流行っているというボールを打ち合う遊びがあるでしょう? あれなんてとても楽しそうだわ」
「ああ、テニスですか?」
それを聞いて思わず私は苦笑いをしてしまった。
テニスは私とクリスが喧嘩ついでに庭でやっていたのを見た近所の人が勝手に真似をして流行らせたのだ。
ちなみに喧嘩の原因は庭の草むしりをクリスがサボったからである。
「テニスと言うの? もしかしてもあれもあなたが流行らせた?」
「流行らせたと言いますか、クリスと喧嘩をしていた所を見られたと言いますか……」
「どういう事?」