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「失礼ね! だって考えてもみなさいよ。クリス、あんたが今回ここに来た理由、まだ分かんないんだよね?」
「おう」
「でもさ、聖女ならもしかしたら知ってるんじゃないの?」
「おお! なるほど」
「ていうか、そのノートにネタバレ書いてんでしょ? 逆手に取って先に解決しちゃえば良くない?」
「確かに! ヒマリは本当にずる賢いですね!」
「トワも一言余計なのよ!」
私の言葉に全員が納得したように頷いた。
「お嬢さんの言う通りだな。先を知っているということは、未然に防げるということだ。むしろ創作物万歳じゃないか」
「その発想はありませんでした……」
「まぁそりゃ普通は聖女を利用してやろうだなんて考えないもんな~。いんじゃない? ただどうやってそれを聞き出すんだよ?」
「そりゃあなた達が頑張ってよ。おや? もしかしてこれはトワさんの出番では?」
ニヤニヤしてトワを見ると、トワは青ざめて首を振る。
「お、俺に何させるつもり!? 嫌ですよ! 絶対に嫌ですから!」
「まだ何も言ってないじゃん。そうね~……聖女ってさ、多分若干調子乗ってると思うのよ、今」
「何故です?」
「だって、私と同じ世界から来たと仮定して、さらに元社畜だったとしたら、長年ちやほやされる事なんて無かったと思うの。そう、最初の頃の私のように」
「お前がちやほやされてた事なんてあったか? むしろ今も調子乗ってるよな?」
「う・る・さ・い! そういう時って色々緩んでると思うのよね、気が。だからね、褒め倒すのよ。良い気分にさせるだけさせてあっちからペラペラ喋ってもらえばいいと思うの」
「性格悪いなぁ~」
私の計画にノーマンが笑う。
「ノーマンさん、これは性格の問題じゃないの。いわゆる接客トークの基本中の基本なのよ。客を良い気にさせて物を売りつける。これは接客業社畜の超! 基本なの! こちとら商売なんだから、タダで帰す訳にはいかないのよ!」
「そ、そうなん?」
「そうよ! それがどれだけ巧いかで成績が変わるのよ! 給料も変わるのよ! そしてどんどん性格が悪くなっていく自分にヘコむのよ……」
心がささくれ立っていた社畜時代。言いたくもないおべっかばかりを言って物を売るあの罪悪感と来たら、言葉では言い表せない。
どんなに良い物であったとしても、相手が納得しないと買ってはくれない。普段は真摯に伝えていても、時には相手の隙をついたりした事もある。そういう日は大抵家に帰って思い出してどこかに埋まりたくなるのだ。
「た、大変だったんだな、あんた……」
「まぁね。でもそのおかげで今は顧客がい~っぱい! 何でもやっておいて損は無いわね。それにどのみち私はいつだって本当の事しか言ってないしね。何故なら嘘が下手だから」
「だな。ヒマリは悪い所を控えめに忠告して良い所を名一杯誇張して言うだけだもんな? それはもはや嘘と同義だろってぐらい」
「そうそう……ってあんたね! 援護する振りして背中から撃つの止めてくれる!?」
眉を吊り上げた私を見てクリスはおかしそうに笑った。本当に失礼なやつだ。
「とりあえずどうにかして聖女にこれから起こる事を聞き出すべきだな」
「そうですね。そうしたらまだ対処のしようもあるでしょう。ノーマン、頼みましたよ」
「はあ!? 何で俺?」
「あなたの管理下でしょ? 聖女は」
「そんなんお前がやればいいだろ! そうしたら聖女とちょっとは親しくなれるかもしんねぇぞ?」
「いいです。遠慮します。俺の思い描いていた聖女はあの方ではないです」
プイとそっぽを向いたヒューにノーマンが呆れたような顔をする。




