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どうして1つの病院だけでそれをしてしまったのか。立ち回りが下手すぎやしないか? 私が首をひねると、レイモンドが真顔で頷いた。
「株うんぬんは置いておいて、まぁ別の場所から反発は起こるわな。でも相手は聖女だ。一般人にはどうにも出来ないってのが本音だよ」
「あー、出た。ほら、同調圧力!」
「ほんと、それなんですよ。助けてもらった人達からすれば聖女は神様です。でもそうでない人たちからしたら、どうしてあそこだけ? となるわけです。でも言えない。だから聖女が来てから起こった小さな事件の6割は聖女絡みで、犯人は聖女に救いの手を差し伸べてもらえなかった人たちなんですよね……」
聖女に夢を見ていたというヒューが大きなため息を落としながら言う。
「まぁでもやっちゃったもんは仕方ないよ。今更どうしようも出来ないし、聖女に頼んで他の病院でもやってもらうしかないんじゃないの?」
「ええ、まぁそうなんですが、さっきも言ったように聖女は何と言うか、この国の改革をしようとしているみたいで、実を言うとここからが本題なんですよ」
「まだ本題に入ってなかったのかよ! お茶冷めたわ!」
「おかわり作ってくるわ。他の人もいる?」
私の問いかけに全員が素直にコクリと頷いた。
「なぁなぁトワ、ここ、お茶すら美味いんだけど何なの?」
「お茶ですか? お茶は食事に合わせてヒマリが毎回違うのを入れてくれるんですよ。今日のはほうじ茶かな。今日みたいに寒い日は熱いほうじ茶はたまりません」
「僕は緑茶も好きだけどな。あれ飲んでると不思議と風邪引かないんだよな~」
「そりゃそうよ。お茶の中でも緑茶の殺菌力はかなり強力だからね。はい、どうぞ」
やかんに入れたお茶を机の真ん中に置いてその隣にみかんを置くと、もう立派な日本の冬である。ついでにこの間もらった号外でみかんの皮を捨てる入れ物も作る。
「お茶の中でもって事は、他のお茶にも何か効能が? そもそもお茶なんて自分で作れるんですか?」
不思議そうな顔をしながらヒューが言うが、お茶なんて元になる茶葉は全部一緒だ。
「作れるわよ。茶葉は全部一緒だもん」
「え!? そうなんですか? 味がこんなにも違うのに!?」
「うん。あなた達が普段飲んでる紅茶を何の発酵もさせないのがクリスの好きな緑茶。これが一番殺菌効果が高いの。風邪引きやすい時期に飲んどくだけで全然違う。で、半発酵させたのがウーロン茶。これはダイエットにも効果的って言われてる。脂肪を吸収させにくくすんの。で、完全に発酵させたのがここの世界で飲まれてる紅茶。生活習慣病に良いって言われてる。トワが好きなほうじ茶は緑茶を焙煎した奴。カフェインが少なくてリラックス効果絶大。他にも色々あるけどね。うちではこの4種類を使い分けてるのよ」
スラスラと言う私を見て団長3人組が目をまん丸にした。
「す、凄いなお嬢ちゃん」
「いやはや驚きました……お茶1つとってもこの知識ですか……先程の料理もでしたが、やはりあなたは異世界からいらっしゃったんですね」
「てか、むしろこっちが聖女みてぇじゃん!」
「あれ? あなた達は私が異世界から来たこと知ってるんだ?」
「ほんとだ! 何でだよ!? それは秘密なんだろ!?」
そう言ってクリスが怖い顔をしてトワに詰め寄るが、トワは真顔で頷いただけだ。




