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「めっちゃ美味そうな匂いがする」

「あなたつい今しがたお腹一杯でもう何も入らないって言ってませんでした?」

「あれ嘘な。デザートは別腹だから」

「お前はどこぞの貴婦人か。ヒマリどの、これは?」

「マドレーヌって言う焼き菓子よ。はい、トワにはおっきいのね」


 何せトワの快気祝いだ。他のよりも一回り大きなマドレーヌをトワに渡すと、トワは物凄い笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます! ヒマリの向日葵……」

「……あんた、もしかして酔ってんの?」

「くっそ寒いから止めろよ、そういうつまんない洒落」


 寒すぎるダジャレを私とクリスにボロカスに言われてもトワは上機嫌だ。そんなトワを見て団長の面々はあんぐりと口を開けている。


「で、結局あなた達は何をしに来た訳? 夕飯たかりに来たの?」


 トワのどうでもいいダジャレを無視してお茶を飲みながら私が言うと、団長達はハッとしてお互いの顔を見合わせた。


「そうでした! すっかり忘れていました!」

「全くだ。飯の美味さとコタツの威力に完全に仕事を忘れていた……」

「いや~美味かったからな~。トワいいな~毎日こんなん食ってんだもんな~」

「羨ましいでしょう? 寮の料理とは比べ物になりませんよね。で、何か問題でも起こったんですか? 俺は明日から復帰予定だったんですけど、それすら待てなかったということですか?」


 休みを邪魔された事が本心では気に食わなかったのか、トワの顔はまるで能面のようだ。


「あー……まぁ、想像通りだよ。一昨日な、来たんだよ。聖女様」

「ああ、そうなんですね。で、どこの寮に?」


 トワの問いかけに三人ともが揃ってトワを指さした。その途端、トワを取り巻く空気の温度が比喩ではなく三度は下がったと思う。


「まさかとは思いますが、俺の部屋?」

「そう……ですね」

「いや、なんかもう止めても無駄だったっつうかその……なぁ?」

「てかあれ、ただの変態じゃね?」


 マドレーヌを齧りながら無礼極まりない事を言ったノーマンの口を慌ててヒューが塞ぎ、レイモンドが青ざめて怒鳴る。


「お前、今のは絶対に! 思ってても外で言うなよ!?」

「わーってるよ。でもトワが置いてった家具見てはしゃいでんのとか気味悪くてさ。特にベッド」

「ベッド!? 聖女用に買い換えなかったんですか!?」


 まさか自分の家具までそのまま使われるとは思ってもいなかっただろうトワが青ざめると、三人は真顔で頷いた。


「表向きには、そんな贅沢出来ないわ……なんてしおらしい事言ってたんだけどさ、あれは単純にトワのベッド使いたいだけだろ」

「私もそう思います……すみません」


 何に謝っているのかよく分らないが、ヒューはがっくりと項垂れる。そんなヒューを見てレイモンドが苦笑いを浮かべた。


「あー、気にせんでやってくれ。こいつは聖女に並々ならぬ憧れ、というか夢があっただけだ。でな、まぁそれは別にいいさ。気味悪いなってだけの話なんだが、その後だよ」

「まだ何かあるんですか?」

「あるもある。何を思ったか寮自体を改築しようとしだしてな」

「はあ」

「まずは風呂だ。鍛錬で疲れている騎士を大浴場に入れるなんて! とか言い出したんだよ。で、個別に風呂をつけるべきだって言い出してだな」

「どこにそんな予算が?」


 呆れたトワにノーマンは深く頷いた。


「それなんだよ。そんな予算ないっつうの! 騎士団はただでさえ戦争無い時は金食い虫だっつうのに。あと食事な。騎士団の飯ってそれぞれの寮で順番に自分たちで作るじゃん?」

「ええ」

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