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本当は電気が使えるのだから電気でいきたかったが、あいにく私には新たに電化製品を作り出す技術も知識も無い。そこで目をつけたのがクリスの力だ。
クリスは高位妖精なので火は扱える。火力も自由に操れるし、その火力を魔石と呼ばれる妖精にしか扱えない不思議な魔法を貯蓄出来る石に詰めておけば最低でも3日はポカポカのままだ。それをテーブルの裏板にDIYを施して無理やり取り付けた。最初はクリスはまた私がおかしな事をしだしたと思っていたようだが、実際にコタツに入ってからというもの、今やもうコタツの虜である。
魔法はこの世界でもありふれた物ではなく、妖精にしか使えない。使えたとしても低級妖精だと調節が難しいらしい。高位妖精さまさまだ。
私が最後の味の調整をしながら人数分のお皿を出して夕食の準備をしていると、畳の部屋から感動したような声が聞こえてきた。
「こ、これは凄いですね!」
「ああ~……冷えた体にこれはたまらんな……」
「うわ~これは確かに靴いらないわ」
「そうでしょう!? 俺も初めてこれに入った時は感動してしまって!」
はしゃぐトワの声に次いでノーマンの呆れたような声がする。
「いや、お前はキャラ変わりすぎだから。何だよ、寮じゃあんなにつんけんしてんのに。案外表情豊かなんだな」
「いつもトワは能面のような顔をしていますからね。俺も驚きです」
「何にしてもお前にとって寛げる場所があるってのは嬉しいね。最初は寮出て婚約者と暮らすって聞いた時はどうなる事かと思ったが、今のお前見て安心したよ」
「まぁ、ここでは騎士で居る必要もないですから」
「ふぅん? まぁ良い出会いがあって良かったじゃねぇか。正直言うと俺達心配してたんだよ。聖女様の言うお前の婚約者はとんでもなさそうだったからさ」
おや? どうやら私の株が少し上がったのでは? キッチンから聞き耳を立てていた私が一人ほくそ笑んでいると——。
「いや、お前ら勘違いすんなよ? ヒマリはあの記事のまんまの女だぞ? なぁ? トワ」
「う、まぁ……そうですね。否定は出来ませんね……」
少し迷ってクリスの意見に賛成したトワ。よし、トワとクリスの分は少し減らそう。そんな事を考えながら私はそっとトワとクリスの皿からロールキャベツを1つずつ減らした。
「おいおいマジか。でも一緒に住むんだ?」
「ええ。確かに文字にするとそういう人かもしれませんが、ヒマリはそれだけではないので。人生を直してくれるという彼女の仕事は本物でしたよ」
よし、トワの分はやっぱり増やしておこう。こういう時に相手を決して下げないのがトワの良い所である。
「そうだなぁ。ヒマリはバカがつくほど正直だし文字に起こしたらとんでもないけど、誰にでもフラットだよな。だからこっちも変に気を使わない」
うむ。クリスの分も戻しておこう。なんだ、案外私は慕われているのかもしれない。そう思った矢先。
「まぁでも、あの記事は概ね当たってんな!」
「ですね。それは俺も否定出来ませんでした……」
……どっちやねん! 上げたり下げたりしやがって! 私は心の中で悪態をつきながら、二人の皿に二人が大好きだと言った、出汁が出尽くしてパッサパサになった鰹節を大量に入れてやった。
「は~い、ご飯ですよ~」
笑顔で料理を運ぶ私を見て二人はあからさまにヤバい! みたいな顔をするが、もう遅い。お前たちの夕食は鰹節のロールキャベツ添えだ。
夕食が無事に終わってトワとクリスとお茶の準備をしてマドレーヌを配ると、それまでコタツに入ってそのまま転がっていた男たちは徐に起き出した。




