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「あ、そ。ああ、出汁な。これは天才だよな。鰹節なんか猫の餌だと思ってたわ。実際ペットショップにしか売ってねぇしな」
「俺はここに来て初めて見ましたよ。へぇ……俺たち猫の餌食べてるんですね……」
「言うな! 考えるな! 美味いもんは美味い! それでいいだろ!」
「……そうですね。止めましょう。ところでこれ、いつまでこねればいいんだろう?」
「さあ? もういいんじゃね? なぁヒマリー、これどんだけこねんの?」
「んー? あ、もういいよ。ありがと。それじゃあ次はこれをこうやって丸めてここにドボン!」
「あっつ!」
「あっちい!」
ロールキャベツを入れた拍子に沸騰した鍋から熱湯が飛び出して二人にかかった。とは言ってもちょびっとだ。それをこの二人はいつも大げさに騒ぎ立てる。
「お前はどうしてそんなに雑いんだよ!」
「そうですよ、ヒマリ。俺とクリスだからいいものの、あなたが火傷したらどうするんですか」
「僕でも良くねぇ! こうやってお玉でそっと入れるとか出来んだろうが! ったく。トワ、さっさと丸めろ。僕が入れる」
「ええ。上手く出来るかな……こうやって……こう?」
トワが丸めた拍子にキャベツが破れて中身が飛び出した。
「破れてる! 中身出てる! お前も雑い……っていうか不器用だな。あーもう! 僕に代われ」
「じゃあ俺は入れる係をやりますね」
嬉々としてクリスからお玉を受け取ったトワはニコニコしながら鍋にロールキャベツを放り込んで行くのだが、その光景はあまりにも楽しげだ。
「ねぇあんた達さ、そうやってるとあんた達が新婚みたいだね」
思わず思った事をぽろりと言うと、二人して鬼のような形相で振り返った。
「何てこと言うんですか! 縁起でもない!」
「何てこと言うんだ! 縁起でもない!」
全く同じセリフを言う二人に私が思わず吹き出すと、二人はバツが悪そうに顔を見合わせて咳払いをしてその後は無言で作業をしていた。仲が良いのは良い事である。
夕食がそろそろ出来上がろうかという時、玄関が突然騒がしくなった。
「なんだろ?」
「一人じゃないですね……何かあったのかな」
トワはお玉を持ったまま玄関に視線を向けてすっかり騎士の顔をしている。
「私ちょっと見てくるわ」
「俺が行きましょうか?」
「あなたはまだ休んでないと駄目。クリス、トワ見張ってて」
「あいよ~。ほら、溜まってきてんぞ。さっさと入れろよ」
「あ、はい」
クリスに言われてトワはすぐさま鍋に向き直ると、せっせと鍋にロールキャベツを投入しだした。
そんな二人を置いて私が玄関に辿り着いた途端に激しいノック音が辺りに響く。
「ちょっと! どこの誰だか知らないけどドア壊す気!?」
思いの外早くドアが開いた事に驚いたのか、ドアの前には3人のイケメンが驚いた顔をして立ち尽くしている。
「あ、申し訳ありません。こちらにトワが居ると聞いたもので」
3人のうちの長い髪を一つに束ねた男が言う。それを聞いて私は眉を吊り上げた。またか、と。
「居るけど……トワは病み上がりなの! また連れ戻しに来たの?」
「まぁまぁお嬢さん、そんな怒らんでやってくださいよ。ちょっと寮で問題が起こったんでトワに知恵を借りに来ただけですから」
3人のうちの渋いイケオジの言葉に私はフンと鼻を鳴らした。割とタイプだ。
「そんな訳だからちょーっと家、上げてくんない?」
3人の中で一番チャラそうな男がそんな事を言いながら無理やり家に上がり込んで来ようとしたので、私は思い切りそいつの足を踏んづけた。




