60
疑わしい視線を私に向けてくるクリスとトワを見て店主は笑う。
「相変わらず仲良いですねぇ」
からかうような店主にトワは私を見て顔を真っ赤にした。そんなトワが珍しいのか店主は驚いたような顔をしてトワを凝視する。
「す、凄いもんを見てしまった……何にしても回復されて良かった! これ、快気祝いに是非! ヒマリ、しっかり美味いもん作るんだぞ!」
「ありがとう! 何作ろうかなぁ~。トワ何食べたい?」
「僕にも聞けよ!」
「トワの快気祝いでしょ!」
「ちぇっ。なぁトワ、あれがいいだろ? ロールキャベツ!」
「なんです? それ」
キョトンとしたトワを見てクリスがポンと手を叩いた。
「あ、そっか。あれ食べたの僕とルチルだ。お前が遠征中に兎汁食ってた時だわ」
「なんです!? それ!」
「あーもう、うるさいうるさい! じゃあ今日はロールキャベツに決まり! それでいい?」
「はい。あ、さっきの向日葵の種のケーキも」
「マドレーヌね。はいはい。それじゃ、次行くわよ」
「うん。ご主人、ありがとうございました」
私の掛け声にトワは八百屋の主人に深々と頭を下げる。そんなトワを見て店主はゴクリと息を呑んで慌てて両手を振った。
「いいですいいです! 頭上げてください!」
天下の騎士団長に頭を下げられた店主は耳まで真っ赤にしてアワアワしていて何だか面白いが、この後どの店へ行っても皆同じ反応だったので、トワはやっぱり凄いのかもしれない。
ようやく家に戻ってきた私はさっそく夕飯の準備に取り掛かった。まずはボールにひき肉と他の具を入れておいて、次にキャベツを丁寧に剥いてサッと茹でる。
「一度茹でるの?」
「うん、柔らかい方が包みやすいからね。って料理してるとこ見てないでもうちょっと寝てたら?」
「もう大丈夫。何か手伝う事ある?」
「そうねぇ……ああ、じゃあこれこねておいてくれる?」
「こねるの?」
「うん。それをこのキャベツで包むから」
「包む!」
「……いちいち反応が大きいわね。ところで味は何がいい? コンソメ? トマト? 和風?」
「和風のが好きかな。鰹節美味しいよね」
「トワのお気に入りは煮っころがしだもんね。分かった、それじゃあ今日のは和風にするね」
言いながら鍋にお湯を沸かし始めた私の隣でトワが一生懸命具材をこねている。そんな私達の間にクリスが無理やり割り込んできた。
「お前ら新婚みたいなオーラ醸し出すなよ! 僕も居るんだぞ!」
「あ、クリスちょうど良かった。ちょっとこの鍋見てて」
「え? ちょ、」
「さて、マドレーヌマドレーヌっと!」
何か言いかけたクリスをキッチンに残して私はダイニングでマドレーヌを作り始めた。背中でクリスとトワの喧嘩を聞きながら。
「おい! 狭いんだからもっとそっち寄れよ」
「……」
「無視かよ!」
「はぁ……せっかくヒマリと楽しく料理してたのに……何なんですか、ちょっとは空気読めません?」
「読んだからあえて来たんだよ! お前ばっか良い思いなんかさせねぇからな! 大体兎汁しか作れない奴がいっちょ前に料理に手出しすんな!」
「失礼な。この間も言いましたが、野草のスープも作れます! それに俺はヒマリの婚約者だから」
「あーはいはい。仕事上の婚約者な。まぁやらされてる事は大抵召使いだけどな?」
「それはあなたもですよね?」
「……言っとくけど、お前もこれからそうなるんだからな。朝から晩まで働かされるからな」
「そんな事もうとっくに覚悟の上ですよ。それよりそれ、良い匂いですね」




