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「ありがとう、ヒマリ。風邪の時に誰かに優しくしてもらうなんて久しぶりすぎて恥ずかしいね」

「そうなの? あ、そっか……ご両親もう……」

「ええ。大分小さい頃の事なのでそれは別にいいんですけど、何ていうか……うん、凄く嬉しい」

「そう? それは良かったわ。でも早く良くなってね。でないと町の人達が皆押しかけてきちゃうかも」


 そう言って私はもう一度子供にするようにトワの頭を撫でてスープをトワの膝の上に置いてニヤリと笑った。


「フーフーしてアーンしてあげようか?」

「い、いいです! 流石にそれは恥ずかしすぎます!」

「ふふ。それじゃあちゃんとクスリも飲んで寝てね」

「はい、ありがとうございます」


 そう言ってトワはスープをうっとりした顔で飲み始めた。それを見届けた私は部屋から出てダイニングに戻ると、そこではクリスとルチルが美味い美味い言いながら夕食を食べている。そんな光景を見てふと思った。


「私……結婚もしてないのに、何か三人のママになったみたい……」


 と。



 トワ発熱事件から二日後、ようやくトワの熱が完全に下がった。今はすっかり見違えるように元気になったトワはいつものように食卓で食後のお茶を飲んでいる。昼間にトワがここに居るのが何だか変な感じだ。


「はぁ……一月分ぐらい休んだ気分です」

「そんな大げさな。騎士団ちょっと働きすぎなんじゃないの?」


 私の言葉にトワは苦笑いを浮かべて頷いた。


「警護の仕事に休みなんてほぼありませんから」

「嘘つけ。騎士団の連中、結構休んでんだろ? お前だけが働きすぎなんだよ」

「まぁそれは否定出来ませんね。騎士団の団長なんてやってると、休みの日でも仕事が舞い込んでくるんですよ」

「それはそうね。たったの2日で何回追い返したか」


 トワが寝込んでいるというのに騎士団の下っ端共は何度もやってきては、無理やりトワを連れて行こうとした。主に聖女関連で。その度に私は猫を被るのも忘れて怒鳴りつけ、追い返していたのだ。クリスと共に。


「本当に助かりました。おかげで久しぶりにぐっすり眠れた」

「トワの今回の急な発熱は間違いなくそれだからね? 過度なストレスと栄養失調と睡眠不足! 忙しいからってどうせロクな物食べてなかったんでしょ? 戦争で食べないのに慣れてるからってそういう無茶は寿命縮めるわよ?」

「はい、すみません」


 説教する私を何故かトワはニコニコした顔で見てくる。コイツ全く懲りてない!


「もう! トワにはこれからは毎日お弁当作ろうかな」

「え!? ほ、本当に!?」


 お弁当にそんなに食いつくか? と思うほどトワは顔を輝かせているが、それを聞いてクリスは羽根を広げて立ち上がった。


「え!? 弁当? こいつだけ!?」

「あんたは家で私と食べるでしょうが! だってトワが今回みたいに倒れたら、結局忙しいの私じゃない。それならトワが倒れないように栄養管理してた方が全然楽だもん」

「あ、そういう……」

「なるほどね~やっぱヒマリだな~! 超がつくほどの鈍チン♪」


 私の本音を聞いてトワは何故かガックリ肩を落とし、今度はクリスが喜んでいる。


「そういう訳だからトワがここにいる間は私がお弁当作るから、毎日ちゃんと残さずに食べてちょうだいね」

「はい。理由はどうあれ弁当は嬉しい」

「そう?」


 素人の弁当でこんなにも喜んで……可哀想に、今までどれほど貧困な昼ごはんを食べていたのか、と。それから私はもう一つ重要な約束をトワとした。

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