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 トワを私の部屋に運んでおでこに氷嚢を置いて毛布をかけてやると、トワはすぐさま毛布を手繰り寄せて安堵の息をついている。可哀想に。寒かったのだな。


「はぁ~。これで良し、と」

「ねぇ、こんなのでいいの? もっとこう冷たくしなくても大丈夫なの?」

「ルチルさん? あなた今まで風邪を引いて寝込んだ事は?」

「もちろんあるわ」

「そうよね? その時どうしてた? 水ぶっかけられた?」

「いいえ。むしろ暖かくして眠らされたわ」

「そうでしょ? トワも人間よ。風邪の時に水なんてかけたら余計に酷くなるに決まってんでしょうが!」

「ごめんなさいっ!」

「よろしい。じゃ、ご飯作ろ! あんた達キッチン行って野菜とか選別して仕舞ってきて」

「りょうか~い」

「それなら私も出来るわ!」


 二人は嬉々として部屋から飛び出して行く。そんな二人を見送って私はトワの顔を覗き込んだ。


「トワ聞こえる? 意識はある?」


 顔をしかめて毛布に包まっているトワに尋ねると、トワはコクリと頷いた。どうやら意識はしっかりしているようだ。


「何か食べられそう?」

「無理……です……」

「あ、そう。じゃあスープとかなら飲める?」


 コクリ。もう一度頷いたトワを見て私も頷き、トワの頭を撫でて言った。


「分かった。それじゃあ作ってくるから少し寝てて。出来たら持ってくるわね」

「……あり……がと……」


 トワは私が撫でた所を恥ずかしそうに自分で触ってポツリと言った。何だかそれが小さい子のようで思わず笑ってしまう。


「どういたしまして」


 部屋を出た私はキッチンに向かい、いつものように腕まくりをした。トワには野菜とお肉で出汁を取って卵を溶かしたコンソメスープを作る。


 社畜時代、私の唯一の趣味が料理だった。今思えばやっておいて良かった、節約自炊である。


「ここにパセリ散らして、はい、かんせ~い」

「美味しそう!」

「良い匂いだな~」


 クリスはそう言ってさっさと自分の分をテーブルに持って行く。その後にルチルもホクホクした顔をしてついて行った。私はと言えば。


「これトワに持って行ってくるわね。先に食べてて」


 特製風邪スープを持って部屋に戻ると、トワはぐっすり眠っていた。来た時よりは随分顔色も良くなっているが、体を触るとまだ熱い。


「トワ、寝てる所悪いんだけど、これだけ飲んでクスリ飲も」

「ん……? あぁ……」


 うっすらと目を開けたトワが私を見て眩しそうに目を細め、何故か私に向かって手を伸ばしてきた。その仕草が無駄に色気があって眼福だ。


「どうしたの? 起きる?」

「ん……可愛い……ほんと……なんでそんな可愛い……はっ!?」

「は!?」


 もしかして寝ぼけてんのか!? 思わず声を上げた私にトワはようやく完全に覚醒したようで、顔を真っ赤にして飛び起きた。いや、赤いのは熱のせいかもしれないが。


「お、俺、今なにを……」

「完全に寝ぼけてたわよね? 何の夢見てたの?」

「いや、夢って言うか、その境目に居たって言うか……あ、良い匂い」

「鼻もちゃんと効くのね? 体はダルくない?」

「怠いですけど、大分マシ……です」


 一体何の夢を見ていたのか、トワは私からスッと視線を逸して俯いた。


「はい、これ。これ飲んでクスリ飲んで、今日はもうゆっくり寝てちょうだい。食べ終わったら食器はそのままでいいからね。また様子見に来るから」

「ヒマリが……無条件に優しい……」

「そりゃ病人だもの。病人にもいつもの態度だったら、本当に私鬼みたいじゃない」


 あまりの言い草に一周して笑ってしまった私を見てトワも柔らかく微笑んだ。

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