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「ええ! お安い御用です」
笑顔を浮かべて頷いたトワを見て騎士たちがその場で持っていた家具を落とした。それを見てトワはまた怒鳴りつけた。私が怒るから! と言って。
しばらくしてようやく全ての家具を運び終えた騎士たちにクリスに頼んでチョコレートを配ってもらった。
「はいよ、ごくろうさん」
「あ、ありがとうございます!」
「ほら、お前もな。おつかれさん」
「一生大事にします!」
「いや痛む前に食えよ。ヒマリー、配り終わったぞ~」
「ありがとね、クリス。あんた達もお疲れ様。はい、これタンドリーチキン。帰り道にでも食べなさい」
作り置きしてあったチキンを騎士に渡していると、そこへトワがやってきた。
「お前たち、今日は休みの所すまなかったな。聖女にもし俺の事を尋ねられたら、もう婚約者の家に行ったから気遣いは無用だと伝えてくれ」
「とんでもありません! 隊長の御役に立てた事、嬉しく思います! 聖女様にもそのようにお伝え致します! ヒマリ様、本日はお騒がせして申し訳ありませんでした! お菓子とチキンもありがとうございます!」
「いいのよ。気をつけて帰んのよ」
「はい!」
騎士たちはそう言ってビシリと敬礼をして馬車に次々に乗り込んで行く。
そのまま馬車が見えなくなるまで手を振っていると、隣でクリスとトワが怪訝な顔をして私を覗き込んでくる。
「やけに愛想を振りまきますね」
「当然でしょ。こういう印象操作って大事なんだからね! トワの婚約者は愛想が無くて傍若無人だったなんて言われたら、今度こそ私ヘコむわ」
「ははは、なるほど。俺の婚約者どのは流石ですね」
「全くだ。どんな時でもブレない上辺だけの愛想を振りまく女、それがヒマリだもんな」
「あんたは一言多い! さて、それじゃあホットチョコレートの続き作ろ~っと。ついでにトワ、詳しい話聞かせてよ」
「そうですね。はぁ、もう何から話したら良いのやら」
言いながらトワは私達の後をついてきた。
ホットチョコレートとボックスクッキーを食べながら私はトワの身に起こった話を聞いて、涙を拭う振りをすると、そんな私をトワが恨めしげに見つめてきた。
「不憫だねぇ」
「生まれて初めて騎士になどなるんじゃなかったって心の底から思いましたよ」
トワはそう言って大きなため息を落とす。
トワの話によると、あの訂正新聞が出た直後、突然聖女が寮を訪ねてきたらしい。そして何を思ったか、突然自分もその寮に住むと言い出したそうなのだ。
「そんな急に来て住むって言い出すって凄いな。しかも男所帯にだろ? 聖女の倫理観もなかなかヤバいな。むしろヒマリ以上だな」
「そうなんですよ。聖女の言い分としては自分が騎士団寮に住めば、わざわざ騎士が聖女を四六時中護衛しなくても済むだろう? という事なんですが、こちらとしては男だけの寮に女性がやってくるのは問題事が起こる予感しか無いわけです」
「それはそうよね。狼の群れに羊一匹放り込むようなもんよね」
それは何と言うか、さぁ食ってくださいと言わんばかりである。私がコクコクと頷くと、トワはクッキーを齧って目を輝かせた後、また暗い顔に戻る。
「騎士団寮には規約があって、揉め事が起こった時には寮に住んでいる人間で解決しなければいけません。事と次第によっては最悪除隊させられるんですが、俺は揉め事の匂いしかしないな、と思って」
「で、さっさと荷物まとめて出てきたって訳か」
「はい。一応、直属の部下にも伝えてきました。逃げるなら早いうちがいいぞ、と」
「直属の部下、って、騎士団全員がトワの部下じゃないの?」




