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「だな。ちょっと見てくる」

「うん、お願い。ありがと」


 外の事はクリスに任せて鍋をかき混ぜていると、外からクリスの怒鳴り声が聞こえてきた。


「来るの来週じゃなかったのかよ!? まだあれから3日しか経ってねぇぞ! あとなんだよこの大荷物!」


 続いて聞こえてきたのはトワの声だ。


「それがちょっと事情がありまして。とりあえず荷物運び込んでもいいですか?」

「いいわきゃねぇだろ! まだお前が使う部屋片付けてねぇよ!」

「いいですいいです、自分でやるので。悪いな。お前たち荷物を運んでくれ。あと、この家は土足厳禁だ。ここで靴を脱ぐように」

「はい!」

「ちょちょちょ! 誰だよ!? てか入っていいなんて言ってな——」


 クリスの声が途切れたかと思うと、玄関が賑やかになった。一旦火を止めて玄関に向かうと、騎士団の制服を着た数人の男たちが家具を担いでどドカドカと家に上がり込んでくる。


「ちょっとあんた達、壁に傷とかつけないでよ? クリス、案内してやってちょうだい」

「はぁ……りょうか~い。ほら、こっちだ」


 クリスとトワのやりとりを聞いていた私が低い声で言うと、騎士たちは突然背筋をシャンと伸ばして威勢の良い返事をしてキビキビと動き出したのだが、何故か皆顔が引きつっている。


 怪訝な顔をしていた私の元にようやく大きな箱を担いだトワがやってきた。


「ヒマリ、すみません、何の連絡もしないで」

「本当よ。一体どういう事? クリスじゃないけど、来週からって言ってたわよね?」

「そうなんですが……ちょっと寮に居づらくて」

「寮に居づらいって何でまた——あいつら! 壁にぶつけたわね!?」


 最後まで言い終えないうちにトワが住む予定の部屋から大きな音が聞こえてきて私が眉を吊り上げると、それよりも先にトワが動いた。


「お前たち! 慎重に運べと言っただろう!」

「も、申し訳ありません! 隊長の家具が——」

「家具などどうでもいい! 家を傷つけるなとヒマリが言っている! 従え!」

「はいっ!!」


 それだけ怒鳴ってトワはくるりとこちらを向いた。


「えっと、で、何の話をしてたっけ?」

「いや、だからあんた寮に居づらいってどういう事よ? って」

「それは彼らが帰ったら話します。あ、これお詫びのビールです」


 そう言ってトワが差し出してきたのは私が美味しいとべた褒めしたビールだ。私はそれを嬉々として受け取ってそのままクリスに手渡す。


「夜まで冷やして晩ごはんの時に飲も! これめっちゃ美味しいから」

「へぇ、楽しみ。で、これは冷やして来いって事?」

「そう。よろしく」

「へいへい」


 すんなり従うクリスを見て騎士たちが唖然とした顔をしてこちらを見ているが、そんな騎士たちを無視して私はトワに詰め寄った。


「ねぇトワさん? ビールを貰っておいて言うのも何だけど、あなたの事情がどうであれ、こちらにも都合ってものがあるのよね。せめて先に馬で手紙届けるとかそういう事は出来なかったの?」

「いやその、出そうとは思ったんですよ? でも聖女に掴まりそうになったので着の身着のまま最低限の家具だけ馬車に詰めて飛び出してきたんです」

「聖女に捕まりそうになった? まだ追いかけられてんの?」

「はい……もう俺に婚約者が居ようが居まいがお構いなしと言いますか、むしろ自分の屋敷にクリスと来たらいいとか言い出す始末で……」


 そう言って大きなため息を落としたトワを見て私は思わず憐れみの目を向ける。


「災難だったね。まぁもう来ちゃったもんはしょうがないけど、荷物運び終わったら晩ごはんの買い物してきてくれる?」

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