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「ごめんごめん、言い過ぎた。甘いものだっけ? あ、じゃあちょうどいいわ。さっきマリアンヌ様がお見舞にってチョコレートを大量に送ってきてくれたのよ。それでホットチョコ作ってあげる」
私の言葉にクリスはさっきと打って変わって目と羽根を輝かせてコクコクと頷く。多分ホットチョコレートという字面だけで喜んでいるのだろう。
そんなクリスを見て私は肩をすくめるとキッチンに向かってホットチョコレートの準備をし始める。
すると待ちきれなくなったのか、いつの間にかクリスが隣に立っていた。
良かった。どうやら機嫌は直ったようだ。妖精は長く生きているからか怒りを引きずらなくて良い。
「めっちゃ良い匂いじゃん。マリアンヌ良いチョコ持ってきたな~」
「ね。たださ、量がさ、ヤバいのよ。どうやってこんなに食べんのよってぐらいあんのよ」
そう言って私は先程マリアンヌから届いた大きなカゴ一杯に入ったチョコレートを指差すと、クリスもそれを見て腕組をして苦笑いを浮かべる。
「ほんとだな。貴族のお嬢様は加減ってものを知らねぇよな。その点ルチルはとてもじゃないが一国のお姫様とは思えないぐらい庶民的だな」
「本当よ。あの子こそお姫様なのにビールは好きだわ、町で値切るわ、人参丸齧りするわだもんね」
「ははは! 僕はあいつのああいう気取らない所は結構好きだけどな!」
「うん、それは私も。この世界に来て最初にルチルの顔ヤバいって正直に言って本当に良かったよ」
「いや、それはお前正直すぎだし、普通は首刎ねられる案件だから自重しろ」
そんな私にクリスが怖い顔をして詰め寄ってきてそんな事を言うものだから、私は素直に謝った。
「はい、ごめんなさい」
「よろしい。お前は正直が過ぎるぞ。思ったこと全部口に出しすぎ」
「それは本当に反省してる。仕事中はちゃんとしてるんだけどオフになると途端にね~……。さっきもだけど、それで今までも散々失敗してるからな~。今はクリスがこうやってちゃんと叱ってくれるから助かるわ。ありがとね。案外私がクリスを引き寄せたのかもね。そう考えるとクリスがここに押しかけ強盗したのも運命だったのかも」
何の気無しにそんな事を言った私に、クリスは一瞬キョトンとして次いで頬を染めた。
「お、おう。お前の正直さはたまにびっくりするわ、ほんとに。そうなんだよな、お前という人間は良いことも悪いことも正直に口に出すんだよな」
「それが一番ストレス無いからね。ストレス溜めまくった社畜時代の反動かな。それで何回か体壊してるしね」
そう、ストレスが過ぎて酷い時は救急車まで呼ばれた私だ。最早胃炎は友達だったあの頃……。そんな話をするとクリスは青ざめる。
「おっ前……そんな濃い自我をよく殺してたな」
「社畜に自我は必要ないのよ、クリス。心を無にしてひたすらお客様という名の神様の振りをしたモンスターたちに頭を下げまくるの。それが正しい社畜という生き物だったのよ」
「……社畜、絶対なりたくねぇ……。うん、お前の暴言は僕がちゃんと受け止めてやるから安心してろ」
「はは、ありがと。クリスは優しいね。私も出来るだけ暴言は吐かないようにするよ」
やっぱり優しいクリスに私は甘えっぱなしだ。見た目が子供でもさすが高位妖精である。中身は私よりもずっと大人だ。
そんな事を考えながら私は鍋にチョコが焦げ付かないように慎重にかき混ぜる。
次第に辺りに甘い匂いが漂いだして二人でその匂いに目を細めていると、何やら外が突然騒がしくなった。
「なんだろ?」
「さあ? ルチルか?」
「にしちゃ声多くない?」




