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「そ。じゃ、改めてよろしくね、トワ」


 そう言って私はトワに向かって右手を差し出すと、トワは少しだけはにかんだように笑って私の手を握ってくる。


「はい、よろしくお願いします」

「いいな~楽しそ~。私もここに住みたいな~」

「あんたは無理でしょ、お姫様なんだから」

「ちぇ~! お姫様って性分じゃないんだけどな」


 ルチルは自分の事をとてもよく理解している。そんなルチルのセリフに思わず頷いた私だったが、目の前のトワはそんなルチルを冷たい視線で見ている。


「姫、それは絶対に城では言わないでくださいね、お願いですから」

「分かってるわよ。はぁ~あ、私も自由になりたいな」

「まぁまぁルチル。連絡さえくれたらちゃんと今まで通りあんたのご飯も用意してあげるから。もちろんビールも」

「絶対だからね! 約束だから!」

「はいはい」


 こうして、偽物の婚約者と押しかけ妖精との奇妙な同居生活が始まろうとしていた。



 あれから3日。トワとルチルが至るところに掛け合ってくれたようで、市井に前回の号外の訂正が急遽配布された。


 とは言っても私の事に関しては微塵も、これっぽっちも訂正されてはいなかったが、トワとクリスの同居先がトワの実家ではなくトワの婚約者の家という事になったのだ。


 世間ではクリスの名付け役とトワの婚約者が同一人物だという事を知っている人の方が少ない。それは高位妖精と高位妖精の名付け役の事を守るためでもあるらしい。


「あんたって本当に貴重な存在なのね~」


 号外訂正新聞を読みながら言うと、対面に座ってコーヒーを飲んでいたクリスがフフンと鼻を鳴らした。


「まぁね。この国に高位妖精が来たって事しか知らされないんだよ、どこの国も。でないと名付け役が危ねぇからな」

「どういう事? 私が危ないの?」

「そうだな~最悪命狙われたりするんじゃね?」


 何ともなしに呟いたクリスの言葉に私はギョッとして顔を上げた。


「嘘でしょ!? 私、命狙われてんの!?」

「いや、知らねぇけど、他国からすりゃ高位妖精が居るってだけで羨ましい話だからな」

「そういや前から聞きたかったんだけど、あんた達ってパートナーを一生変える事出来ないんでしょ? それって離れて暮らすって設定になっても別に良い訳?」

「大丈夫だろ、別に。パートナーだからって一生そばに居ないといけないって決まりは聞いたことないし、実際パートナーじゃない奴と子供作った奴だっているし。名前とパートナーは変えられないってだけでさ」

「そうなの? でもそれじゃあ、あんた自由なんじゃん。それ分かってて居直り強盗みたいな真似したの?」

「聞こえ悪いな。大体人間界が久しぶりなのに名前だけつけられて放り出されたって困るじゃん。だけどヒマリが相当ヤバそうな奴だったら僕は名前だけ貰ってすぐさまトンズラしてたけどな!」


 そう言って歯を見せて笑うクリスの憎たらしい事と言ったら! 私は肘をついて昨日焼いたクッキーを齧りながら言う。


「なるほどね~。他に何か縛りみたいなのないの?」

「縛り? そうだなぁ。あ! 国も変えられない。ヒマリがどっか他所の国に動かない限りは」

「そうなんだ。そういう所はパートナー依存なんだ。他には?」

「他~? う~ん……ああ、大きい魔法を使う時はお前の許可がいるな」

「ふぅん。大きい魔法も自由じゃないんだ。地味に厄介だね、パートナー制度」

「だろ? だから僕たちはいつだって戦々恐々としながら人間界に来るんだよ。ガチで運だからな、パートナーは」

「それってさ、絶対来なきゃダメなの? 別に魔導書引かなきゃいいんじゃないの?」

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