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「ごめんなさい、ヒマリ。この号外、止められなかったの……いつもなら市井に配られる物には絶対に先に目を通すんだけど……」
「俺もすみません。騎士団を動かして新聞を回収しようとしたのですが、間に合いませんでした……」
しょんぼりと項垂れる二人は本当に申し訳無さそうに落ち込んでいる。
「ありがとね、二人共。回収してくれようとしたんだね」
「当然じゃない! あんな嘘ばっかり、とは言えないけどデタラメが多い記事が載った新聞ばら撒くなんて、そんなの反逆罪よ!?」
「そうですよ! デタラメばかりではなかったので今回は不問にしますが、きっちり訂正は入れさせます!」
「ねぇ二人共、一応聞くけどそのデタラメじゃない所って言うのはもしかして私の事が書いてある所なの?」
にっこり笑った私を見て二人はあからさまに視線を逸らす。
「ヒ、ヒマリはだって……ねぇ?」
「いや、そこに関しては嘘とも言い切れないというか、少し納得してしまう自分が居て……すみません!」
「ほらな? お前という人間は文章にするとああいう人間なんだよ。諦めろ」
「……そういうね、文章で人を判断する文化は良くないと思うの。そうよ、履歴書なんかでその人の何が分かるっていうの? 五分も話してないのに私の何が分かるって!? あ、なんか思い出したら腹たってきた。忘れもしない、あの面接三昧の日々……社畜予備軍に休息など無かった……」
真夏に汗拭きシート片手にヒィヒィ言いながら内定を求め彷徨い歩いた学生時代を思い出してブツブツと恨み言を唱えだすと、そんな私を見てクリスが哀れみの眼差しを向けてくる。
「あ~あ、ま~たヒマリの社畜時代の嫌な思い出が蘇ってる。とりあえずこいつは放っておいて、どうすんだよ。僕はここから動く気ないんだけど?」
「俺だって実家に戻る気なんてありませんよ。けれど王からの勅令なんです。俺には逆らえません……」
私がブツブツと呪詛を唱える横でどんどん話は進んでいくが、ふと思った。
「あ、じゃあトワがここにしばらく住めば?」
「え?」
「え!」
「えー……」
驚いたトワと目を輝かせたルチル、そして嫌そうなクリスを見て私は続けた。
「だって王からの勅令だからトワは絶対に逆らえないでしょ? かと言ってクリスもトワの実家になんて行きたくない。そしてトワも実家には帰りたくない。何より私はクリスが居ないと仕事にならない。だったら、ここにトワが来れば全部解決じゃない? それに私達一応婚約者なんだもん。別に不自然でもないよね?」
「おっまえ天才かよ! そうだよ、お前ら一応形だけの婚約者じゃん! だったら別に何も問題ねぇよな!?」
「いや、問題ありますよ! 婚前なのに一緒に住むとかそんなの聞いたことない!」
「そうなの? 結婚前にお試しで一緒に住んでみる同棲システムとかここには無いの?」
「あら、その同棲システムってなぁに?」
首を傾げたルチルに私は同棲について詳しく説明した。するとそれを聞いたルチルが頬を染めて手を叩いて喜ぶ。
「それはいいわね! ちょっと貞操観念的には問題あるかもだけど、確かに結婚前にお互いを知るために共に過ごすのは大事な事だと思うわ!」
「でしょ? それに貞操観念ったって、身体の相性だって大事でしょうよ。それが合わなくて離婚した人、私結構知ってるもん」
「そ、そんな事が理由で!?」
驚いたトワに私は真顔で頷いた。




