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ルチルは毎度毎度ここへやって来ては王の愚痴を喋り倒して帰って行く訳だが、今回ばかりは私も思わず王の愚痴を言いそうになる。
「王様だろうが神様だろうが、僕は絶対に行かないからな! ヒマリ、今すぐ隣町に引っ越そうぜ」
「いや、そりゃそうしたいのは山々だけど、隣町に逃げた所であそこもエトワールだもん。意味ないよ」
「じゃ、隣の国行こう! 何だって僕がトワの屋敷に移らなきゃなんないんだよ!」
「ねぇちょっとこれ見てよ。言い出しっぺ聖女さまだよ」
そう言って私が号外の一文を指差すと、クリスが隣から覗き込んできて青ざめた。
「マジじゃん! あの男色の話聞いたからか、僕には聖女がそういうつもりで言ったとしか思えないんだけど」
「私もそう思う。ていうかこれ、私の事ボロカスすぎない? 会ったこともないのに」
クリスが持ち帰った号外を読むと、そこにはクリスを名付けた私の事がまるでどこかで見ていたかのようにボロカスに書かれていた。
しかし内容は概ね当たっているような当たっていないような感じなので複雑である。
「なになに? かの偉大な高位妖精の名付け役は高位妖精を自己のために使役するとんでもない悪党だ。しかし高位妖精は妖精界の理を破ることは出来ず、今もなお日々虐げられて暮らしている、って、お前じゃん。まんまお前の事じゃん」
「いや、そうかもだけど! 何かこんな書き方されたら私すんごい酷いことしてるみたいじゃん! 日々使役するったって買い物と草むしりよ? それをこんな書き方する!?」
内容だけ読めばさも悪党かのように書かれているが、私がクリスに頼んでいる事と言えばはっきり言って子供に頼むような事ばかりである。と、私は思っている。
それを聞いてクリスも苦笑いを浮かべて言った。
「まぁ誤解は招くよな。で、この記事だと虐げられた僕を救うのはトワしか居ないって事になってんのが何とも……」
「ていうかあんた達が聖女の事怖がってた理由がやっと分かったわ。まるで見てきたかのように話すんだね、この人」
記事の最後には聖女が直々にインタビューに答えた記事が載っていた。
そこには、はっきりと私の事を守銭奴で傍若無人だと書いてあるのだが、ほぼ当たっているという自覚があるだけに怖い。
「いや、これはニュアンスが違うっていうか、お前の事を知ってる奴らはこの記事見て噴いてると思うぞ?」
「そうかなぁ」
見たこともない人からの突然の誹謗中傷にしょんぼりしていると、そんな私を慰めるようにクリスが声を出して笑う。
「まぁ文章にしたらお前は確かに守銭奴で傍若無人で自己中で社畜だけど」
「最後の2つはあんたの感想よね?」
「まぁ聞けよ。文字にすりゃ酷い女だけど、お前のこと知ってる奴らはこんな風に思ってねぇよって話。ああ~ヒマリはな~って笑い話だろ」
「……それもどうなの」
「ははは! 大方当たってるだけにな! これに関しては僕もトワもルチルも否定は出来ないわな」
「いや、そこは否定して!?」
「問題はそこじゃねぇんだよ。だからって何で僕がトワと暮らすんだよって話だよ!」
クリスがそう言って新聞を机に勢いよく叩きつけて立ち上がったその時。
「全くですよ! どうして俺がクリスと実家に戻るという話になっているんですか!」
「そうよそうよ! 何で私とヒマリが共謀してクリス様を虐げてるって話になってる訳!?」
「い、いつ来たの、あんた達」
突然現れたトワとルチルに私とクリスが驚いていると、二人は所定の椅子に座って同時に大きなため息を落とした。




