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「あ、いや別にそういう事がしたくない訳ではなくて……って、何言ってんだ、俺」
耳まで真っ赤にして必死に取り繕っていたトワは、とうとう両手で顔を覆ってしまった。最初の印象から比べると随分表情豊かになったものだ。
「止めとけよ。下手に言い訳したらどんどん泥沼に足突っ込むぞ」
「言い訳じゃないですってば!」
「まぁまぁ二人共。とりあえず聖女様はあんた達がデキてるって思ってる訳だ」
「どんな思い込みだよ。ていうかその他のセリフも気になるな。公式とか裏設定ってなんだ?」
「さあ? 俺が聞く間もなく一人で喋ってたので何とも」
そう言ってトワは何かを思い出したかのようにため息を落とした。その顔にはデカデカと、うんざりだ、と書かれている。
「災難だったわね、二人共。何か変な誤解されてるみたいだし早めに解いておいた方がいいんじゃないの?」
私の問いにトワは大きなため息を落とす。
「あんまり話したくないんですけどね。聖女に限らずやっぱり女性は苦手です」
「ふぅ~ん。そっかぁ~その割にはヒマリとは平気で喋るよね~。あ! もしかしてヒマリの事を女だと思ってないのかも~?」
トワのセリフにクリスがテーブルに頬杖をついてまたOLみたいな話し方をすると、トワはハッとした顔をして私を見るなり早口で言う。
「違います! 違うからね!? ヒマリは裏表は激しいし人使いは荒いしお金に目がないけど十分魅力的な女性だから! 俺が唯一何も気にしないで話せる貴重な女性だから!」
「それ、大半が私の悪口じゃない?」
「え!? いや、でもヒマリってそういう所ある……でしょ?」
「あるな。むしろそういうとこばっかだな」
「ちょっとあんた達ねぇ! まぁいいや。とにかくこれ以上ややこしい事になんないように気をつけてたらいいんじゃない?」
「そうですね。それしかないですよね。まぁ幸いな事に城でクリスに会うこともありませんしね」
「だな。僕はヒマリのお世話で精一杯だからな。城に出向いてる暇なんかねぇんだよ。てか、お前いつの間に僕の事呼び捨てにしてんだよ」
「あなただって俺の事呼び捨てじゃないですか。敬語使っているだけマシでしょ」
「いやお前な、僕高位妖精なんだよ、こう見えても。敬えとまでは言わねぇよ。でもさ、もうちょっと何か無い訳?」
「無いですね。まだ尊敬出来そうな所も残念ですが見つかってませんから」
「こ、こいつヒマリぐらい腹立つな!」
羽根を震わせてそんな事を言うクリスにトワが鼻で笑う。そんな二人を見て私は思わず呟いた。
「あんた達ってさ、何だかんだ言いながら地味に仲いいよね?」
それを聞いてトワとクリスは二人して机に乗り上げてきて同時に言う。
「絶対に無いから!」
と。やっぱりこの二人、仲が良い。
二回目の号外が出たのは聖女がやってきてから半月後の事だった。
「ヒ、ヒ、ヒマリ! 大変だ! おい、大変だぞ!」
そう言って部屋にノックも無しに飛び込んできたクリスは、やっと腰痛が治まってきたので部屋で軽作業をしていた私の肩をこれでもかと揺さぶった。
「い、痛い! 腰!」
「あ、ああ、悪い。いや、お前の腰どころの話じゃないんだよ! これ! 号外!」
クリスは痛さのあまりに腰を抑えた私を見て一瞬申し訳無さそうな顔をしたものの、すぐに思い出したかのように一枚の新聞を私の前に突きつけてきた。
「また号外? 今度はなんな……のぉぉ!?」
「聞いてない! 僕たち何にも聞いてないよな!?」
「聞いてないわよ! 誰よ、こんなふざけた事ぬかしてんのは——って、王様かぁ……」




