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「私? 私はヒマリ・ユウキ」

「ミドルネームは?」

「無いよ、そんなの。私の居た世界の私の居た国では名字と名前だけなの。だからミドルネームって何か憧れるのよね。で、トワのミドルネームはリンゼイって言うの? 何か似合ってるね」


 何気なく私が言うと、途端にトワの顔が耳まで赤くなった。え? なんでそんな照れるの?


 意味が分からなくて首を傾げた私にトワが言う。


「ミ、ミドルネームは大抵親しい仲でないと呼び合わないんだよ」

「へぇ、そうなんだ。面白いね。それじゃあいつか私もリンゼイって呼べるようになるのかな~」


 親しい仲というぐらいだからきっと親友とか仲の良い友人ぐらいの枠だろうと思っていた私が軽い口調で言うと、途端にトワはピタリと足を止めて顔を真っ赤にして私を凝視してくる。


「え……それってヒマリは俺と——」


 トワが何かを言いかけたその時だ。後ろからクリスの怒鳴り声が聞こえてきた。


「いつまでかかるんだよ! さっさと岩陰にヒマリを下ろせよ!」

「ごめんってば! トワ、そこでいいよ。ありがとう」

「あ、はい……」


 私が岩陰を指差すとトワは何故かしょんぼりと項垂れて私を岩陰に下ろしてくれた。私はトワが後ろを向いたのを確認して下りた途端ドレスをたくし上げ、どうにか腰にペタリと湿布を貼る。


「終わったよ」

「え、もう?」

「うん。湿布貼っただけだから」


 そう言って岩に掴まり立ち上がろうとした私をトワは慌てて抱き上げて歩き出す。


 そう言えばさっきも思ったが、あちらの世界でこんな風に男の人に抱き上げられた事なんて無くて何だか照れよりも感動してしまう。


「やっぱ騎士様は鍛え方が全然違うんだね。筋肉とかもヤバそう。腹筋割れてる?」

「ふ、腹筋? まぁ、そりゃある程度は……」

「やっぱそうなんだ? いや、腰が痛くてあんまり堪能出来なかったけど、胸筋とかも地味に凄いもんね。それにしても一見優男風なのにねぇ……うわ、すご。硬っ!」


 言いながらトワの胸をペタペタ触っていると、トワは顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら言った。


「ヒマリ? あの、あんまりこうやって男にベタベタ触るのはどうかと思うんだけど?」

「あ、そうだよね、ごめんごめん。ついついこういう商売出来そうだなって考えちゃった」

「しょ、商売……俺に何やらせる気!?」

「いや、私の世界にホストクラブって言うのがあったのよ。そこにはイケメンがズラリと勢ぞろいしててそれはもう天国みたいな所でね。あ、ちなみに私は行った事ないから想像なんだけど。トワとかクリスとか並べてそんな店やったら流行るだろうな~って思っただけ」


 そんなホストクラブを想像してほくそ笑んだ私を見てトワが青ざめた。


「何する店か知らないけど、こんな事させるのもするのもヒマリだけだから! あとそんな店絶対にさせないからね!?」

「しないってば。あそこは天国らしいけど、それと同時に地獄でもあるみたいだからね。身を滅ぼした社畜仲間が何人居た事か……怖い怖い」


 そう言って私はホストクラブにハマって借金まで作ってしまった友人を思い出して震えた。そんな彼女も今は立派な2児の母だ。


「ヒマリは放っておいたらそのうち変な事しだしそうで怖いよ」

「そう? そんな事無いと思うけど」


 とは言え簡単にトワの婚約者の振りという仕事に手を出した私だ。もしかしたらトワの言う通りかもしれないと考え直した。



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