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「あなた高位妖精でしょう? 何とか出来ないのですか?」

「無茶言うな! 僕たち妖精は自然にまつわる魔法しか使えないんだよ! お前もそんぐらい知ってるだろ?」

「はぁ……そうでしたね。天候は操れても怪我の一つも治せないとか」

「うっせ!」

「とりあえず絶対零度の悪魔、ヒマリを下ろせよ。湿布貼ってやるから」

「……わざわざ二つ名で呼ぶのは止めろ。ついでに湿布は俺が貼る」

「いや、トワも危ない。僕がやる」

「あなたはもっと危ないでしょう? 俺が貼ります。俺はヒマリの婚約者なので」

「それは仕事上の話だろ! ヒマリは優雅な独身生活を貫いて豊かな老後を過ごすんだよ! 僕と二人でな!」

「それこそありえない。大体あなたはヒマリの裏表の激しさと一生暮らす覚悟があるのですか? それこそ奴隷のように毎日パシられる覚悟は?」

「今我慢できてんだから出来るに決まってるだろ! お前こそ出来るのか!? 朝から鼓膜破れそうな程の大声で叩き起こされて炎天下の中一日中草むしりさせられるんだぞ!? それが終わったら買い物だ! 重い荷物ばっかり頼まれて腕千切れそうになるのに耐えられんのか!?」


 おや? 雲行きが怪しいな? 私は頭の上で喧嘩する二人の言葉を聞きながらちらりとフレッドを見ると、フレッドも青ざめながらこちらを見ている。


「そんな事なんでもありませんね。もう慣れましたよ。今までで一番重かったのは配達代をケチりたいから漬物石を家に運べ、でしたから。愛より何より金が好きなヒマリはいつかあなたを売っ払うかもしれませんよ?」

「そ、それはもう言われたけど……今は違う! はずだ! そんな事言ったらお前はどうなんだよ! 言っとくけどこいつはマジでガメついぞ! 想像以上だぞ!?」

「そんな事はもう知っていますよ。誰が相手でもズバズバ言うし二重人格だしお金が大好きだしとてもはっきりした性格だと言うことも知っていますよ!」


 うん、これは悪口を言われているな? 私はそんな二人を無視してまだ青ざめているフレッドに笑顔で言った。


「嫌よね~、もう何言ってんのかしらね? ほほほ」


 マリアンヌっぽく笑ってみたが、フレッドはそんな私を見て一歩後ずさる。


「いや、あんたが一番怖いから! 高位妖精に炎天下の中草むしり!? 絶対零度の悪魔に漬物石運ばせた!? 遠方の国の女、怖すぎだろう!?」

「ちょっと誤解があるわ。炎天下の中草むしりさせたのは働かざる者食うべからずの精神を大事にしているからで、漬物石を運ばせたのはトワが最近そう言えば剣ばかり持ってるって言うから違うもの持たせてあげようと思っただけよ」

「……いや、それ聞いてその発想に行き着く方が怖いわ。で、とりあえず湿布どうする? 俺が貼るか?」


 そう言って引きつりながらフレッドが私に湿布を渡してきたので、私は首を横に振った。


「んーん。誰が貼ってもうるさそうだし、あの岩の影で自分で貼ってくる」

「そうだな、それがいい。えっと、トワ? あの岩陰にヒマリ運んでやってくれよ。もう自分で貼るってさ」

「二つ名を止めろと言った途端に呼び捨てか?」


 それを聞いた途端、クリスと仲良く喧嘩をしていたトワがくるりと振り返りフレッドに背筋が凍りそうな声で言う。


 それを聞いたフレッドは明らかに慌てた様子でぼそりと「ラドクリフさん」と呟くと、それを聞いてトワはようやく納得したように頷いて私を岩陰に運ぶべく歩き出した。


「ねぇ、ラドクリフって誰の事?」


 ふと気になって私が言うと、トワは美しすぎる微笑を浮かべる。


「俺だよ。そう言えば言ってなかったっけ。俺の本名はトワ・リンゼイ・ラドクリフ。ヒマリの本名は?」

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