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 何てことだ。マリアンヌの顔にドロを塗るわけにはいかない。その一心で朝からツルハシを振り続けたというのにこのザマである。


「はぁ……ついてないなぁ」


 思わず声を漏らした私の眼の前に何やら影が落ちた。それに気付いてふと視線を上げると、そこには真っ黒のコートを着た男がこちらを見下ろして立っている。


 例えるならミケランジェロの描いた『アダムの創造』のアダムそっくりだ。まぁ、要は彫りが深い。


「あんた、こんな所で寝転んで何してんだ?」

「……見てわからない? 動けないのよ」


 どこの誰だか知らないが、こんな所でか弱い乙女が仰向けにひっくり返っていたら、誰がどう見ても何か事情があるのだろうと思うだろうが!


 私の答えに男は遠慮なく吹き出した。


「ふはっ! そうだよな。こんなとこで好き好んで転がらねぇよな、まともな女は! で、怪我か?」

「……腰をやっちゃったのよ。ていうか見世物じゃないんだからね!」

「いや、豪快に倒れてんなぁと思って。腰か。ちょっと待ってな」


 そう言って男は肩から下げた革製の鞄を脇に置いて私の隣にしゃがみこんだ。


「ほら捕まれ。ゆっくり起き上がるんだ」

「い、いたたたた! ちょちょ、早い! 痛い!」

「あー、こりゃ派手に魔女の一撃食らったな! 何やってこんな事になったんだよ?」

「ツルハシで岩肌を削ってたのよ」

「何でまた」

「ちょっとね。必要だったの痛い痛い!」

「ああ、わりぃ。よっと、大丈夫か? そのままじっとしてろよ?」


 そう言って男は脇においていた大きな鞄の中から何やらガーゼのような物と軟膏のような物を取り出した。


「うん、ありがと。ねぇ、ちょっと何する気? ていうかあなた誰?」

「安心しな、俺は医者だよ。今は本部に呼び出されてその帰り」

「へぇ……すんごい偶然ね」

「全くだな。俺はフレデリック。フレッドでいいよ。あんたは?」

「……ヒマリ」


 ボソボソと言うと、フレッドはパッと顔を上げて私の顔を覗き込んできた。


「ヒマリ? ヒマリって、最近遠方から引っ越して来たお直し屋さんやってるって言う、あのヒマリ?」


 フレッドは怪訝な顔をして私を上から下から眺めて胡散臭そうな声で言う。いや、言っちゃなんだが胡散臭いのはお互い様だろう!


「そう、だと思うけど。私の事知ってるって事は、あなたあの町の医者なの?」

「いや、隣町だけどうちの町でもヒマリの事は結構有名……ってか、年齢は24って聞いたんだけど、お前、本当にあのヒマリか?」

「どういう意味よ?」

「いや、だってお前……まだ子供だろ?」

「……失礼ね! もう立派な大人よ! いったぁ~い!」


 まさかの子供発言に私は思わず拳を振り上げてそのまま撃沈した。腰が痛すぎる。


「動くなよ、じっとしてろ。へぇ、随分若く見えるな。せいぜい16、7だと思った。ほらドレス捲れ。湿布貼るから」

「ん、ありがと。よっこいしょっと」


 言われるがまま私はドレスをたくし上げると、何故かフレッドはギョッとしたような顔をして慌てて私のドレスを下ろす。


「ちょっと、貼ってくれるんじゃないの?」

「いや、貼る。貼るけどお前……もうちょっと恥じらいとかそういう……ないのか?」

「恥じらい? 医者に恥じらってても仕方ないでしょ?」

「いや、そりゃそうだけど……ん? 珍しい、高位妖精じゃねぇか。うちの国に来たって本当だったんだな」


 フレッドの言葉に私は顔を上げて通りを見て驚いた。切り立った崖の間から鬼のような形相で走ってくるのはトワとクリスだ。


「クリス! と、トワ?」

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