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ツルハシを担いで一生懸命、眼の前の鉱石に向かって振り下ろしていた。


「ほらヒマリ! もうちょっとだ頑張れ~!」

「ちょっと! あんたも! 手伝い! なさいよ!」


 ガツガツと鉱石をツルハシで叩きながら怒鳴ると、クリスはおかしそうに空中でケタケタと笑いながら言う。


「え~嫌だ~。汚れるし~疲れるし~汗くさ~い」

「あんたの頭ごとかち割るわよ!?」

「こっわ~い!」


 私の周りをさっきからそんな事を言ってフワフワ飛び回るクリスを睨みつけ、私は一心不乱に鉱石を殴っている。何故かと言うと。


『ヒマリ! お友達がね、近々行ってもいいかって! 12人ほどなんだけどいいかしら?』


 そんなとんでもない手紙が2日ほど前にマリアンヌから届いたのだ。そして全員が全員、マリアンヌが使っている化粧品一式を所望しているなどと言うではないか。


 すぐさま私は在庫チェックをして……ここに居る。そう、足りなかった。圧倒的にファンデーションが足りなかったのだ。


「はぁ、はぁ、これ、後どんぐらい割ったらいいの?」


 私の質問に精製担当のクリスが近寄ってきて私の足元に転がっている鉱石を見て笑顔で言った。


「これの3倍ぐらいかな!」


 と。


 それを聞いて私は膝から崩れ落ちた。早朝からやってきて鉱夫のおっちゃん達に事情を説明してどうにかここを紹介してもらえたものの、夕方までかかってこれっぽっちしか取れなかった。


 だというのに! これの3倍だと!? クリスは私に砕けろと言っているのか!? そうなのか!?


「あっれ~? もう終わりですか~? あんだけ息巻いといてだらしな~い」

「ちょっとあんた! その妙にイラッとする後輩OLみたいな喋り方止めなさいよ!」

「なんだよそれ。どういう意味? オーエル?」

「社畜仲間よ。他にもリーマンとかハケンとかバイトとか色々いんの」

「へー……変な世界。もっと皆自由に生きりゃいいのに」


 腕を組んで腑に落ちないとでも言いたげなクリスに私は大いに頷いた。全くもってその通りである。


「それはほんとそう。生きるために仕事してるはずが、気がついたら仕事する為に生きてんのよ。あそこは怖い世界よ」

「ふーん。ご愁傷さま。ほらヒマリ! 手が止まってんぞ!」

「ぐぬぅ! 結局ここに来ても汗みどろになって働くのか……いつ終わるのだ、私の社畜生活は……」


 会社勤めしているしている訳ではないから精神的にははるかに楽だが、いかんせん完全に身体が資本である。身一つで起業する危うさが今、身にしみて分かってしまって辛い。


 そんな私の心など知りもしないクリスはまたケタケタと笑った。


「それはお前の老後の為なんだから頑張れよ!」

「はぁぁ……いつか左団扇で暮らしてやる!! 私はっ! 絶対に! 負けないぞ!」


 そこまで言ってツルハシを勢いよく振り上げたその時、足元が滑って私はそのまま思い切り後ろにすっ転んだ。


「ちょ、おいお前! 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫じゃ……ない……クリス……お医者さん呼んで……」


 仰向けに転がったまま私は嫌な音を立てた腰をそっと指差すと、それを見てクリスは分かりやすく青ざめる。


「腰か!? 腰やったか!?」

「多分……何か凄い嫌な音した気がする……」

「マジか! ちょっと待ってろよ! 動くなよ! あ、動けないのか」


 それだけ言ってクリスは物凄いスピードで飛んでいき、あっという間に見えなくなってしまった。


 ポツンと鉱山に取り残されると何だか無性に悲しくなってくる。

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