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「なに?」
「いえ、作った物をあんな風に扱われて嫌ではないの?」
「す、すみません! 気を悪くされてませんか!? ヒマリ」
「え? なんで? だってぬか漬けなんて私の居た世界でも苦手な人結構居たし、それを食べなかったからってそんな事でいちいち怒らないよ。トワ、ほら残り貸して」
そんなに心は狭くない! そう言ってトワが残した人参をパクリと食べた私を見てクリスが指さして言った。
「そう! こういうとこだよ! コイツのこういう大雑把さが僕には合ってる!」
「ちょっとどういう意味よ!?」
思わず立ち上がった私の斜め向かいでトワが完全にフリーズしている。
「……」
「トワ? トワ! 大丈夫? 顔真っ赤よ?」
そんなトワを見てルチルが声をかけるが、トワは小刻みに震えてまだ固まっていた。
「あーあー、どこ行ってもモテモテの騎士団長様はビックリするぐらい女慣れしてないな~」
「そうなの? こんな恋に関しては百戦錬磨! みたいな顔してるのに?」
私の言葉に何故かルチルがコクリと頷いた。
「トワは私の記憶の限りでは浮いた話は今まで一切無かったの。そういう意味ではクリス様の言う通りだと思うわ」
真顔でそんな事を言うルチルに私は深く反省した。
あれか。トワは今、自分が食べ残した人参を私が食べたから間接チューだ! みたいな感じになっているのか。って、小学生か! それでよく私に偽物の婚約者になってくれなどと頼んできたな! どう考えてもそちらの方が大胆である。
「へぇ……人は見かけによらないものねぇ」
トワの食べ残しの人参を齧りながらトワを見ると、スッと視線を逸らされてしまう。
「し、仕方ないじゃないですか。物心ついた頃からずっと剣一色の家だったんですから。女兄弟も居ないし女性とその、お付き合いする暇も無かったんですよ」
「あら、それは災難。まぁでも別にいいじゃん。そんな気にすることでもないでしょ」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。女慣れしてようがしてなかろうが大事なのは愛よ! 一般的には」
適当に言った私を見て途端にトワとクリスが半眼になる。
「一般的ってお前。で、お前の本音は?」
「俺もそれが聞きたいですね、是非とも」
「え、もちろん経済力でしょ。愛だけじゃこの世は生きていけませんから! ざんね~ん!」
ビールとぬか漬け片手に言った私にルチルが嬉しそうに手をたたく。
「それはほんっとそう! うちの母さまみたいに散財癖があったら大変よ!」
「ま、その時はどっちも働けばいいんだろうけどさ~。子供とか出来たらそうはいかないじゃん? 愛だけでは……ねぇ?」
言い切った私を見てクリスが肩を落として大きなため息を落とす。
「……なんつぅか、夢がねぇ。だけどこれこそヒマリだって気もする」
「……同感です。相変わらずハッキリした性格で良いと思います……」
「お前はいいじゃん。腐っても伯爵様だろ?」
「いえ、うちも別にそんな力のある家でもないので……」
二人は無言でビールを飲むと、カレイの煮付けを食べている。
「まぁトワの女性関係は今はどうでもいいのよ。そんな事よりも聖女様! ルチル、なんか物凄い悪態つきながら入って来なかった?」
私の言葉にルチルはハッとして握りしめていた人参を置いて、机にダン! と両手をつく。




