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するとスタンは事情を説明して恥ずかしそうに頭をかく。そんなスタンの話を聞いてクリスはまるで自分の事のように喜んだ。
「なんだよ! 大出世じゃん! そっかそっか。うちに来た時はあんなにも自信無さそうだったのに、もう大丈夫そうだな! しっかし俳優の護衛か。モテるだろ?」
「いえ、私はあくまでも護衛なのでモテるとかは——」
「まったまたぁ~! 絶対モテるって! なぁヒマリ!」
「そうね。スタンさんはイケメンだからね!」
「イケメン?」
「ああ、イケメンってのはヒマリの居た所の言葉でカッコイイって事なんだって。まぁでもこれで人生勝ち組だな! しっかり謳歌しろよ」
「あ、はい。ありがとうございます、しっかり謳歌します」
そう言ってスタンはクリスに笑いながら頭を下げた。そんなスタンを見てクリスも満足そうに頷く。
「なんかさ、マリアンヌにしてもお前にしてもさ、ヒマリがお直ししただけで人生良い方向に向かってく奴ら見るとさ、いいなって思うよな。幸せになれよ、スタン!」
クリスはスタンの背中をポンと叩いてスタンが持っていた私の荷物を取り上げた。
「だからこれは僕が運ぶよ。ヒマリのパートナーはこの僕だから!」
それを聞いた途端、スタンの笑顔が引きつった。
「……あ、そういう……えっと、はい。よろしくお願いします……でも、私も諦めませんから。たとえ高位妖精様がお相手でも」
「……勝手にしろよ。僕は負けないから。行こ! ヒマリ」
「え? ちょ、何なの急に現れて! スタンさん、今度また遊びに来てね! その時に色々お話聞かせて! 楽しみにしてる!」
「はい! また遊びに行きます! お土産持って」
「あはは! うん、ありがと~! それじゃあまたね~。ちょっとクリス!」
引きずられるように私はクリスに手を引かれてその場を去った。クリスは見た目は子供でも力はそれなりにある。
城下町の外れで辻馬車を待っていると、突然クリスがくるりとこちらを向いて私を睨みつけて鼻先に人差し指を突きつけてくる。
「ヒマリ! お前はちょっと警戒心が無さ過ぎ!」
「突然なんなの」
「スタンだよ! お前僕が来なかったらこんな時間にスタン家に上げる気だったのか?」
「こんな時間って……まだ昼過ぎだけど」
ムッとして言い返すと、クリスはふんと鼻を鳴らす。
「今は昼過ぎでもあっという間に夜になるだろ!」
その言葉にようやく私はクリスが何を言いたいのか理解した。私とて子供ではない。クリスが何を言わんとしているかちゃんと分かっている。
けれどクリス、君には言っておかなければなるまい。そんな心配は杞憂だと。
「もしかして心配してくれてるの? ありがとう。でもね、前にも言ったけどあっちの世界で散々恋愛方面で失敗した私がね、そんなにモテる訳ないから! 言ったでしょ? 私はこの世界で自分の力で荒稼ぎして幸せな老後を暮らすんだって!」
言い切った私を見てクリスはガックリと肩を落として大きなため息をついた。
「はぁ……ニブチンもここまで来れば天晴だよ。やっぱヒマリには僕がついてないとあっという間に食われるな」
「ん? 何か言った?」
「な~んも。で、何、この大荷物」
「いや~調子乗って買い物してたら買いすぎちゃって! でも見て! 布とか鉱石とかめっちゃ安かったの! これを加工してまた高値で売るんだ~」
「……お前は本当にブレないな」
「そんな事よりもあんたよ。何でこんなとこに居んの。さっきのどういう意味?」




