22
「クリス様はヒマリが大好きなんですね」
微笑ましそうにルチルが言うと、クリスは耳まで真っ赤にしてまたそっぽを向いた。そんなクリスにトワが白い目を向けている。
「何度も言いますが、ヒマリは俺の婚約者ですからね! あなたはただのパートナー! です!」
「ふふん、お前は振られたり万が一結婚なんかしても離縁したら終わりだけど、僕はパートナーだから。悪いけど一生ずーっと一緒だから!」
「いやいや、あんたはまだ分かんないんでしょ? とりあえず明日聖女に会ってきなよ。話はそれからだよ」
「そうですね。どのみち明日、聖女のお披露目パーティーなんです。そこにクリス様は呼ばれるかと。この国を守護する高位妖精として」
「へぇ、すっごいじゃん! パーティーだったら絶対ご馳走出るよね!? ちょっとクリス、明日容器渡すから美味しかった物持って帰ってきてよ」
そう言って立ち上がろうとした私を三人で止めにかかってくる。
「いや、それは流石に無理だろ」
「ヒマリ、パーティーのご馳走でもあなたの手料理には敵いませんから」
「ヒマリ、それは高位妖精には流石にさせられないわ!」
「何なのよ、皆して。冗談でしょ。そんな必死に止めないでよ」
何だか悲しくなるではないか。そんな言葉を飲み込んで大人しく席につくと、三人ともあからさまにホッとした顔をする。本当に失礼だ!
そんな事を言い合っていると気づけば夜もすっかり更けていた。
そして翌日、クリスは大きなため息をつきながら 城からやってきた馬車に乗り込み、まるでドナドナの牛のように馬車に揺られて行ってしまった。
「はぁ~……何か久しぶりにすっごい静か! ヤバ! 今日は何しよう!?」
珍しく仕事も一件も入っていなくて完全にフリーだった私は、せっかくなので久しぶりに城下町まで足を伸ばすことにした。
馬車に揺られて30分。城下町までやってくると、やはりどこへ行っても召喚された聖女ブームであちこちが大セールをやっている。これは来て正解だった。
「どうしよう! あれもこれもすっごい安い! うわ! え、この生地がこんな値段!? マジか! 買い! あ、これも可愛い! 買い! はぁぁ! 聖女様バンザイ!」
会ったことも無い聖女に感謝しながらあちこちの店を見て回っていると、前方から誰かが小走りで走り寄ってきた。
誰かと思いながら目を細めていると、優雅なドレスの裾が大きく揺れるのも気にせず美少女が走り寄ってくる。
「ヒマリ! こんな所で何をしているの!?」
「ん? この声……マリアンヌ様!」
そう、あのムンクの叫び少女、もといマリアンヌだ。マリアンヌは飛びつかんばかりの勢いで私の前までやってくると、肩で息をしながら眩しいほどの笑顔を浮かべて開口一番に言った。
「今日のメイクは何点?」
「100点です! どこの美少女が走ってきたのかと思いました!」
「相変わらず口が上手いわね! ところでヒマリはこんな所で何をしているの?」
「お買い物をしてたんですよ。聖女様がやって来たって聞いて、もしかしたら色んな所で色んな物がお安くなってないかな~って」
あけっぴろげに言う私にマリアンヌは口元を隠しておかしそうに笑った。
「ヒマリってば! でも確かに今日はそこら中がお祭り騒ぎになってるわ。何か面白い物あった?」
「ありましたよ! 新しいカラーの鉱石がこんなにもゲット出来ました! これでまた化粧品のカラー物の新色を作ろうと思って」
そしてがっぽり儲けるのである。安く仕入れ高く売る。商売の基本だ。




