フロッピーディスクはアナログなのか?について夜眠れないので考えていたら迷走した!(61)
●フロッピーディスクはアナログなのか?について夜眠れないので考えていたら迷走した!(61)ーFD
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ファイル保存をするときのアイコンが「□」になっていることがあるのを知っている人は多いと思いますが、これって何なのかご存知でしょうか? それがフロッピーディスク(FD)です。
昔のパソコンはHDDを搭載していなくて(もちろんSSDもない)、ファイルを保存するときはフロッピーディスクに記録していたのです。
フロッピーディスクドライブ(FDD)は、2ドライブを備える場合が多くて、それが「A:ドライブ」と「B:ドライブ」です。A:ドライブにはシステムディスク(ワープロアプリなど含むシステム起動用)を入れて、B:ドライブにはデータディスク(ワープロなどで作成したファイルの保存用)を入れると言った使い方をしました(それで、HDDは「C:ドライブ」以降に割り当てられるのですよ)。
今はもう使われていないMSーDOSなどのパソコンでの話でした。
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さて。
2024年1月22日〜23日にかけての報道にて、FDへの注目度が急上昇しました。
お役所に申請を提出する際に使える記憶媒体(を指定する法令や省令)から、「フロッピーディスク(正しくはフレキシブルディスク)」を削除する改正が行われたという報道です。
これを「アナログ規制撤廃」と言うそうです。デジタル化を妨げる社会制度やルールのことを「アナログ規制」と言い、これを撤廃するのです。デジタル化を妨げるものが無くなるのは良いことだと思うけど、何をどうしたんでしょうか?
見出しだけを読むと、FDはアナログなので排除されたと誤解する人がいそうです。記事を良く読めばFDなどに限定されていたのを他の手段でも申請できるように手段を広げたことが分かりますけどね。
つまり、FDを削除する改正とは、FDの使用を禁止して排除することではなくて、FD使用の義務付け(FD縛り)を無くすことです。ちょっと分かりづらいですけど、悪いことではないですね。
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でもねー。FDの削除は「アナログ規制撤廃」の1例なのかな? アナログ規制の「アナログ」とは何を指しているのでしょうか?
それと問題視されるべきは、アナログであることなのか、規制があることなのか?
少し前にはFDでの4630万円の振込問題もありましたね(2022年4月)。FDだったことが原因なのでしょうか? FDには責任は無いですよね?
皆様はFDはデジタルだと理解されてますよね。FDはデジタルなデータを記録し、デジタルなデータを読み出せるのだから、デジタルですよね。
それでも念のために調べてみました。そんな話です。
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例えばフロッピーディスク(FD)。ここでは一般的な3.5インチの2HDのFDについて説明します。
FDの中には、薄くてペラペラした円盤が入っています。この円盤には磁性粉(磁性体)が塗布されていて、磁気でデータを記録できるのです。
円盤上には、同心円状にトラックが80本あって、1つのトラックには18セクタあります。データの記録はセクタ単位で行い、1セクタあたり512バイトを記録できます。これが両面あります。
なので、記録容量は 80 * 18 * 512 * 2 / 1024 = 1440 キロバイト(1.44MB)となります。これがフォーマット時(18 セクタ・512 バイト)の容量です。
FDの箱には「アンフォーマット時 2MB」と記載されていることもあります。これはFDの線記録密度(bit/inch, BPI)から決まる1トラックのビット数と、トラック密度(track/inch, TPI)から決まるトラック数から算出した値です。正確にはちょっと違いますが、細かいことは本シリーズの(65)を見て下さい。
フォーマットでは、トラックの開始位置用のエリアや、セクタのID用のエリア、セクタと次のセクタの間に必要なギャップと呼ばれるエリアなどを設定するため、データの記録に使える分は減ってしまうのです。
1トラックのセクタ数や1セクタのバイト数は、15 セクタ・512 バイトや 8 セクタ・1024 バイトなど色々ありました。データの記憶に使える分が微妙に違います。
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FDのフォーマットは、データの記録をセクタ単位で行う都合上、セクタのサイズを選べるとメリットがあるのでしょう。
数十バイトなどの小さなデータを書き込むのなら、セクタのサイズは小さい方が効率が良いです。セクタのサイズを小さくするとセクタ数は増えます。ですが、ギャップなどのエリアに必要な分も増えるので記憶容量の全体は減ります。大きなデータばかりを書き込むなら、セクタのサイズは大きい方が良いのです。
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FDにデータを記録するのが磁気ヘッドです。
FDDはFD(の中の円盤)を回転させながら、磁気ヘッドを円盤の中心から 23.1875〜38mm(あるいは 24.6875〜39.5mmm)の範囲で移動させます。そして磁気ヘッドが目的のトラック上にきたら、磁気ヘッドにしかるべき電流を流して円盤上の磁性体の残留磁気を変化させます。これでFDにデータを記録します。
磁気ヘッドは大変小さな電磁石からなり、リング状のコア(フェライト)にコイルを備えたものです。コイルに電流を流すことでコア内に磁界を発生させます。コアはRW用とイレーズ用があります。
RW用のコアは、幅 0.131mm で、リングの一部に 0.0007mm のギャップ(隙間)があります。このギャップがFDに接触する部分で、ここから磁気がFDに伝わります。
データはFMあるいはMFMで変調して記録します。FMは8インチと5.25インチの一部のFDで使用された方式で、3.5インチならMFMです。
FM(Frequency Modulation、周波数変調)と言うとモデムの様な波形への変調なのかと思いましたが、そうではないのです。1ビット分の先頭にパルスを置き、中央に0ならパルスなし、1ならパルスありとします。先頭のパルスはクロック用で、中央のパルスがデータ用です。パルスとは極短い矩形波のことです。
そして、磁気ヘッドに流れる電流をパルスが入る毎に逆転します。RW用コアの磁気の方向(S極〜N極)が逆になります。
図にすると次のようになります。
データ: 0 0 0 0 1 1 1 1
パルス:!___!___!___!___!_!_!_!_!_!_!_!
電流:┓ ┏━━━┓ ┏━━━┓ ┏━┓ ┏━┓ ┏━┓ ┏
:┗━━━┛ ┗━━━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗━┛
磁気:|→→→|←←←|→→→|←←←|→|←|→|←|→|←|→|
最初はこれがFMか?と悩みましたが、図にしてみればFMですね。1ビット分の範囲にデータが0なら半波形分、1なら1波形分になるのですから。
MFM(Modified FM)はFMの改良です。クロック用のパルスを適宜省くことで、倍密度を可能とした方式です。
データ: 0 0 0 0 1 1 1 1 0 0 0 0 1 1 1 1
パルス:!_!_!_!__!_!_!_!__!_!_!__!_!_!_!
電流:┓ ┏━┓ ┏━━┓ ┏━┓ ┏━━┓ ┏━┓ ┏━━┓ ┏━┓
:┗━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗━┛ ┗
磁気:|→|←|→|←←|→|←|→|←←|→|←|→|←←|→|←|
FMの1ビット分にMFMでは2ビットを記録できて倍密度なのです。
磁気の方向が反転する最小間隔が同じなことに注目して下さい。磁性体とか改善しないで倍密度が可能なのです。これは凄いですね。誰のアイデアなのか人名が見つからないけど。細かいことは本シリーズの(65)を参照してね!
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磁気は、微視的には(原子のレベルで見れば)デジタルな存在でしょうし、巨視的に見てもデジタル的な挙動があるようですが、まぁ、アナログと言っても良いのではと思います(自信なし)。
それで、音楽用のコンパクトカセットテープは(直線的な比例関係ではありませんが)磁気ヘッドに流す電流と残留磁気が相応することを利用して音楽を記録します。アナログです。本シリーズの(7)で出て来ました。
一方、FDは磁気ヘッドに流す電流の正負をパルスで制御して、円盤上の残留磁気の方向を変化させて記録するのです。これはデジタルですね。デジタルオーディオテープ(DAT)と同じです。
フロッピディスクには何処にもアナログと言うべき要素はないですね! 良いですか? 異論があれば感想欄に!
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FDDの内部です。ジャンクになっていたのを見つけて来ました。
1枚目はFDを途中まで差し込んだところです。2枚目は最後まで。
黒字で「0430」と記されている部分(の下に設置されている小さな部品)が磁気ヘッドです。FDが挿入されるとパックンと咥えるように動きます。
それと、シャッタが開いてFDの中の円盤が露出してます。
磁気ヘッドを中心に拡大しました。
右端の円筒形のパーツはステップモータです。モーターの軸にはスクリューが接続されていて、スクリューの上に磁気ヘッドが載っています。
スクリューの溝はステップモータの3パルス(2パルスの製品もある)で磁気ヘッドを1トラック分(0.1875mm)移動するように設計されているそうです。
ステップモータは少し特殊なモーターです。普通のマブチモーターは2本の端子があって、電池をつなぐと勝手に回転します。回転数は電流に相応します(あ、これってアナログですかね? 後で考えよう)。ステップモータは4本の端子があって、ここに規則正しくパルスを流すとパルス数分だけ回転します。1パルスで回転する角度はモーターの仕様によって違いますが、パルス数で角度を正確に制御できるモーターなのです。オープンループという制御方式でも正確に角度が決まるのです。
磁気ヘッドからは2本のフラットケーブルが出ています(茶色のリボン)。両面あるから2本ですね。1本のフラットケーブルにワイヤーが5つあり、3つはRWコア用で、2つはイレーズコア用のようです。細かいことは本シリーズの(65)を参照してね!
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3.5インチのFDです。FDと言えば黒色だったのですが、後にはカラフルなFDが発売されました。
左側が表面で、右側が裏面です。
表面にはラベルを貼るスペースが広く用意されています。上部には(金属製の)シャッタが付いていて「SONY FORMATTED for IBM PS/2 & compatibles 1.44MB HIGH DENSITY MFD-2HD」との記載があります。ソニーがIBM PS/2(と互換機)のためにフォーマットをしたって。
左下の四角の穴はライトプロテクトのノッチです。裏面を見ると分かりますがスライド式で、手軽に書込み禁止状態にできました。5.25インチは銀色のシールを貼り付ける方式だったので、書込み禁止にする時は少々緊張しましたね。
右下の四角の穴は2DDと2HDの識別用です。2DDには穴がなかった。でもシステム的にはあまり使われてなかったとか。
裏面は、中央に銀色のハブが見えますね。この金属製のハブを裏側からFDDがマグネットで吸着して、駆動ピンで引っ掛けて、円盤を回します。
ハブの中心の四角い穴は、モータの軸が刺さる場所ですが、軸より少し大きいのです。
ハブの中心から外れた位置の大き目の四角い穴は、円盤の位置決め用で、駆動ピンがハマる場所です(5インチは円盤にインデックスホールが空いていて、これで位置を検出していた)。
駆動ピンがこの穴にハマると円盤が回転するのですが、その際、この穴の外側の縁は内側に傾いているため、駆動ピンに円盤が押されて、モータの軸とハブ中心の四角い穴の隙間が密接します!
モータの軸は円形で、四角い穴の2面と接することで円盤の位置決めが正確にできるのです。5.25インチに比べて精度が1桁も向上したとか。
この仕組みで位置ズレを低減できて、3.5インチFDはトラック密度を向上できたそうです。トラックの位置がずれる要因を分析すると円盤の位置ズレの影響が大きいという分析からこのような仕組みに至ったそうです。これはソニー社の特許です。
5.25インチでは 96 TPI でしたが、3.5インチでは 135 TPI に出来ました。
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トラックの位置がずれるとは、アナログなレコードの音溝を思い出します。レコードの音溝は記録される音(音圧など)に影響されて蛇行するのでした。
FDの場合は、記録されるデータの影響ではなくて、機械的な精度の都合で発生する誤差です。FDDの個体差(書き込んだFDDと読み出すFDDが違う場合、なんなら他社製品かも)もあるでしょうし、同じFDDでも置き方(縦置きか横置きか)による磁気ヘッドへ重力の影響も考慮しないといけないそうです。
それでも許容範囲内ならデータを正しく読み取ることができます。デジタルですからね!
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歴史の話になります。
世界初のFDDは1960年のアメリカの Laboratory for Electronics 社との言及もあるも、詳細は不明です。
1970年6月にアメリカのIBM社がFDDとFDを開発しています。一般的には、こっちが最初のフロッピーディスクとされている感じがします。8インチで読み取り専用。記憶容量は 79.1k バイト。システム起動用のプログラムを収容するのが目的でした。
次いでIBM社は1972年9月に読み書き可能なFDを発表しました。当時、データ入力用に使用されていたパンチカードの代わりとするもの。これも8インチで片面・単密度で 400k バイトでした。
1976年にはアメリカのシュガード社が5.25インチのFDDを発表。片面・単密度です。
アメリカのシュガード(Shugart Associates)社は Alan Shugart さんが設立した会社です。シュガードさんは1951年にIBMに入社。そして、1967年から8インチのFDDの開発を始めたのです。なのに完成間近の1969年にIBM社を辞任。しばらくは Memorex 社にいたそうですけど(ここで世界初の読み書き可能な8インチFDDを開発)、1973年にシュガード社を設立して、5.25インチのFDDの開発に至ります。
FDの開発者はシュガードさんだと言えましょう。FDの前にはディスクパックやHDDがあったけど。
以後、小型化と高密度化(大容量化)が進んで行きます。
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余談になりますが。
HDDと本体とのインターフェイスにSASIという規格があって、Shugart Associates System Interface のことでした。ここにもシュガード社の名前があったとは。
その後は、SCSIやらIDE、EIDE、ATA、ATAPI、SATAが出て、今は...。ああ、色々あったな、懐かしいという人は感想欄に!
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3.5インチのFD(とFDD)はソニーが開発したものですって。1980年12月。1DDと2DDでした。
最初はソニー製品で使用されていたのですが、ソニーにしてはめずらしくOEM提供することにしたらしく、1981年11月にはソード社が自社製パソコンに採用。その後もHP社(1982年)、アップル社(1984年)、MSX規格のパソコンに採用。
1983年1月にアメリカのメーカーらとソニーが共同して規格をまとめてANSIに提案して1984年にISOで規格化。当初のトラック数(70→80)や回転数(600rpm→300rpm)が変更されて、自動シャッタの仕組みも導入された。未フォーマット時の容量は 500kB(1DD)と 1.0MB(2DD)になりました。
1984年にはソニー社のパソコンSMC777Cにも3.5インチFDDが採用されています。
3.5インチのFDは固めのケース入りで、5.25インチや8インチのフロッピーに比べてラフに扱ってもよさそうなのが良いですね。シャッター付きで円盤が露出してないのも良いし、シャッターが自動で開閉する仕組みは見ていると楽しい。
2HDのFDDをソニーが開発したのは1985年8月。
この時、2HDの容量を 1.6MB とする案と 2.0MB とする案とで分裂していたそうです。電電公社が指導して(何故?)、幾つかのメーカーが 1.6MB 案で開発を始めるも、ソニー社は 2.0MB を主張したからです。
そして、アメリカのIBM社が1987年4月発売のPS/2で3.5インチ2HDのFDD(2.0MB)を採用して、これで決着しました。...、決着したと言われています。
日本では日本電気社が1986年7月発売のPC9801UV2で、3.5インチ2HDを(...、あ、何をする、くぁwせdrftgyふじこlp)
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1983年にはアメリカのアップル社のパソコン用にソニーの3.5インチFDDがOEMされていたそうですが、アップル独自仕様で他のパソコンでは読み書きできなかったとか。アップル社のパソコンって? Macintosh ですよ。FDのアイコンをゴミ箱に捨てるGUIの奴。
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3.5インチのFDDの出荷台数は2000年〜2002年がピークで、それまではパソコンの出荷台数とほぼ同様に増加していました。つまりパソコンに標準搭載だったのです。
2000年頃にはHDDとCDROMドライブを搭載している機種が多かったのですが、FDDは安価になってコスト負担が少ないので、メーカとしてはとりあえず残しておいたのだろう、という言及を見つけました。
2002年の後はFDDの出荷は減少して、2009年には統計上無くなりました(生産終了かは不明)。ZipとかSuperDiskも途中で出てきましたが先に退場。3.5インチのFDDは圧倒的でした。
FDの出荷枚数は意外なことに1996年がピークです。Win95の後、CDROMドライブの普及が進み、市販ソフトの媒体がFDからCDROMに切り替わったから。
2009年3月末で三菱化学メディア社が3.5インチFDの販売を終了。同時期に日立マクセル社も終了。
それからソニー社は、2011年3月で終了。ソニーが最後のメーカだったと言われています。もう新品は購入できないのです。
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オシロスコープなどの測定器では、2000年頃は普通にフロッピーディスクを内蔵してました。
ソニーテクトロニクスのTDS3000シリーズ、レクロイ社のLTシリーズ、アジレントテクノロジ社のInfiniiumなど。岩通のDS−8812もFDDを内蔵しています。
TDS3000シリーズは、2008年にTDS3000Cが出て、FDDからUSBメモリになりました。
測定器は(故障しない限り)10年でも20年でも使い続けるので現在でも残っているところがありそう。あるよね?
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実はFDは現在(2024年7月)でも新品を購入できるようです(未使用中古品?)。
ヨドバシCOMでは販売終了していますが、アマゾンでは販売している会社があって2023年に現在購入できた旨のレビュがあります。在庫を大量に持っていた会社なのかな。
今はもう製造できない「過去の遺物」って感じですね。もう少ししたらダンジョンとかでドロップしないかしら?
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間違いの指摘とか疑問とか、ご意見・ご感想とかありましたら、どうぞ感想欄に!
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2024.7.28 (旧61)が加筆により過大となったので分割しました。(旧61)の継続エピは(62)で、新規に本エピを投稿します。
2024.7.29 推敲と加筆
2024.8.5 加筆してたら過大になったので分割しました。細かい記述は(65)になる予定です。
2024.8.6 加筆と推敲。内容を整理してダイエット
2024.8.7 推敲!
2024.8.11 微推敲
2024.8.17 微推敲
2024.11.17 推敲