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ep.6

私は家に帰り、ゆっくりお風呂に入ると夕方には寝てしまった。

自分では大丈夫だと思っていたのだが精神的にも肉体的にもかなり疲れているようだった。


タクちゃんのお父さんは私がみつかった後も数時間逃げ回っていたそうだ。

工場のトラックは逃亡には向いていなかったらしい。

すぐにみつかって逮捕されてしまったそうだ。


詳しいことはよくわからないがタクちゃんのお父さんは新しい仕事を探すと言ってこの工場をやめてからずっと無職だったらしい。

私とルイがタクちゃんちを訪れたときにも父親は家の中にいたことになる。

私は考えて身震いした。


────


翌朝起きると「休んでもいいわよ?」とお母さんに言われた。

「学校祭の準備だけだし、行ってくるよ。」

あっという間に明日は金曜日だった。

「一般公開は土曜日だったわよね?」

「うん。明日は展示とか模擬店とかがメインみたい。」

「アオがバンドだなんてなぁ。青春だなぁ!」

「あんまり期待しないでよね。」


学校に行くとみんなの視線が集まった。

セイジがルイとやってきて「有名人だな」と言った。

「え?なんで??」

「ニュース観てないのか?」

セイジはスマホで動画をみせてくれた。


『○○市に住む無職の坂上容疑者は…』

ニュースでは詳しく事件のあらましを伝えていた。

「隣人の女性って私のことね。」

「お前ら破天荒すぎるわ。」

「鼻の骨が折れてなくてよかったよ。」

ルイのきれいな顔が痛々しく腫れていた。


ニュースによると、タクちゃんのお母さんとあのお父さんは再婚だったという。

再婚してうちの隣に引越してきたということだった。

日常的に暴力をふるっていたそうで、タクちゃんが痩せていたのも髪の毛が伸びていたのも経済状況がよくなかったせいだとニュースは報道していた。

お母さんは数ヶ所骨折していてもう少しで内蔵を傷つけて死の危険もあったのだという。


殺人未遂、未成年誘拐、車の窃盗など数々の罪に問われるのだそうだ。

再犯の可能性が高いので保釈はされないだろうとニュースの中で元警察官だという男がコメントしていた。


タクちゃんはそんな中、助けを求めるわけでもなく我慢して生活していたということになる。

私はそれを思うと胸が締めつけられるような気がした。


キラキラたちはさすがに今日は私の陰口を言っていないようだった。

ただ学校祭の準備が忙しかっただけかもしれないが。


みんな私を腫れ物に触るように扱った。

私なんてタクちゃんに比べたらなんてことないのに。


そして学校祭は始まった。

私はルイたちと校内をまわり、思いのほか楽しく過ごせた。

クラスの展示のプラネタリウムは思っていたよりも盛況だった。

私が心を込めて開けた穴は美しい星座になっていた。

お客さんの相手はすべてキラキラ女子たちがやってくれた。


私は合図を受けて照明を消したりつけたりする仕事をいただいた。

「わぁ!」「きれい!」と喜ぶ声が聞こえてくる。

─悪くないな─


1日目は思っていたよりも楽しんでいる自分がいた。


────


そして2日目、私は緊張していた。

考えてみれば誰かの前で歌を歌うなんて狂気の沙汰じゃない。

リハーサルではうまくいっていた。

本番もきっと大丈夫だ。


「アオ、顔青いけど大丈夫か?」

「気のせいだよ。ぜんぜん大丈夫だよ。」

「アオちゃん、そういうときは手に何か書いて飲み込むんだよ!」

「何かって何?」

ワタルは「なんだっけ?」と首を傾げた。

「呪っていう字だっけ?」

ルイがそう言うと「んなわけ!」と言ってセイジが頭を叩いた。

それを見て私は笑っていたようだった。


「大丈夫そうだね、じゃあカマしてくるか!」

ルイの合図で私たちはステージへと向かった。


────


「どーも!即席バンドでーす!」

ワタルの第一声で会場から黄色い歓声が上がった。

逆光の中、目を細めて席を見ると最前列のど真ん中に松田さんがいた。

─さすがだよ 松田さん─


そしてその横に見覚えのあるかわいい顔があった。


─タクちゃん!!!─


ルイもどうやらそれに気がついたようだった。

隣にはタクちゃんのお母さんに似た女性が座っている。

きっとおばさんに連れてきてもらったのだろう。


私は笑顔でタクちゃんを指差した。

「全力でいきます!!」


そして私たちは予定していた3曲をやりきった。

会場は大盛り上がりだった。


終わってから私は急いでタクちゃんを探したがもうそこに姿はなかった。


────


数日がたち、学校から帰ると隣に大きなトラックがとまっていた。

お母さんが言うには、「悲しいことを思い出すから引越しちゃったのかもね」ということだった。


結局私はタクちゃんと話せないままだった。

あのナマイキなクソガキはもういない。


私は隣の家の前を通るとき、ときどきタクちゃんを思い出す。


そして私は今日も諦めもせずキラキラを目指している。

学校祭が終わってからクラスメイトたちの態度が少し変わったように思える。


それとは別に敵も増えたかもしれない。

きっとそれはルイと私が前よりも仲良くなったせいだろう。


「好評だったみたいだしさ、本気でバンドくんじゃう?!」

「ルイはいいけどセイジもワタルも運動部で忙しいでしょ。却下。」

「いいと思ったんだけどなぁ〜!」

「無理無理。」


うまくいかないこともあるけど、私の人生は概ね良好のようだ。


─タクちゃんも元気であれ!─


────


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