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ep.3

学校では1学期のメインイベント『学校祭』の準備が始まった。

うちのクラスは『展示』という地味な選択をして、さらに『プラネタリウム』という暗闇を扱う出し物に決定した。

─星はキラキラしてるからまぁいいか─


クラスの1軍たちが先頭に立って準備をしてくれている。

私はダンボールに穴を開けるという仕事をいただいた。


私がカッターを駆使してダンボールに穴を開けているとルイがその友の『田中セイジ』と私のところにやってきた。

「アオ、ボクたちとバンドやらない?」

「はぁ?」

ひときわ大きな声を上げてしまい、視線を集めてしまった。


「何言ってんの。楽器なんて持ってないし。カスタネットくらいしかできないよ。」

「そう言うと思った!」

ルイは手にカスタネットを持っていた。

「マジで?」

私がそう言うとセイジは笑いだした。

「さすがルイだな!」

「アオさ、歌だけはうまかっただろ?頼むよ、ボーカルやってくれよー!」

「他にいるでしょ、ボーカルなら。」

「それがさ、ルイと一緒にやるとルイばっかり目立つから嫌だとか言われてんの。」

ルイは困った顔をしていた。

「ひどいよねぇ…」

「ボクがベースでセイジがドラム。あとワッたんがギターならやってくれるって。」

「ワッたんって誰?」

「テニスの王子様だよ、ワタル。」

「ワッたんって呼んでるんだ。」

「かわいいだろ?ワッたん!」

私はルイとセイジを見た。


かわいい系のルイ。

ちょい悪クールのセイジ。

王子様のワタル。


そこに私が入ったら…

「地獄みたいなバンドだな。」

私がそう言うとセイジは大笑いした。

ルイは「そう言わないで考えておいて!アオがやらないならこのバンドは解散なんだからね!」と言っていなくなった。

私はダンボールに穴を開ける大事なお仕事に戻った。


なんとなく視線を感じた。

その視線の主はクラスメイトの女子からのものだった。

「永田さん!!断るわけじゃないでしょうね?!」

突然話しかけてきたのは確か『松田リコ』さんだ。

委員長をやっていないのに、みんなから『委員長』と呼ばれている。

おさげにメガネで委員長ぽいからだと誰かが言っていた。


「絶対にやると言って!お願いだから!!」

松田さんは私の肩をつかみ、すごい迫力で迫ってきた。

「えっと、えぇ??」

キラキラたちがこっちを見て「なにあれ」とまたクスクス笑っていた。


松田さんは私からカッターを奪い、机に置いた。

「ちょっと来て」

と言って私を廊下の端に引っ張って行った。


「ルイくんとセイジくんとワタルくんのバンドなんて、夢のようだと思わない?!」

松田さんは目を輝かせてそう言った。

─地獄のようだけど─


「その三人が同じステージに立つなんて考えただけで脳汁が出るわ…」

「えっと…その中の誰かのことが好きってことかな…」

私は声が震えていた。

─松田さん 怖い─


「はぁ?!私が彼らに恋愛感情を抱くわけないでしょう!」

私はそこで察した。

松田さんは…

「ルイ×ワタル、そこに割り込むセイジ…」


─松田さんは夢見るBL好き女子だ─


私はその界隈が全くわからない。

しかし彼女はかなり熱の入った人だ。

「お願い、三人のセッションをどうしても見たいの!!」

「あ、うん、考えておくよ…」

私はそう言うと走って教室へと逃げた。

─ルイめ、ヤバい奴に絡まれたじゃないか─


────


松田さんの圧力に負けて次の日の放課後にはバンドをやると承諾していた。

ルイは私に楽譜を渡してきた。

それは誰しもが知っている昔のロックバンドの曲だった。

「私にこれを歌えと?」

「アオなら余裕だよ!」

私は反論するのにも疲れて楽譜を受け取った。

「明日から軽音部で楽器借りて練習するからよろしく!」


私はダンボールに穴を開けるお仕事を終わらせて家に帰った。


────


朝早く、帰りが遅いからかタクちゃんに会うことがなくなった。

私は忙しくてそんなことも気にしていなかった。


そんなある日、タクちゃんちの家の前に黒い車が停まっていた。

「うちは大丈夫ですから!風邪を引いて休んでるだけですから!」

タクちゃんのお母さんはそう言ってドアをバタンと閉めた。


スーツ姿の男の人と女の人は玄関から車へ向かっていた。

そこで私と目が合った。

「こんにちは、児童相談所の者です。ご近所の方ですか?」

女の人は笑顔で近寄ってきた。

「隣の者です。」

「少しお話伺えますか?」

二人はタクちゃんのことを聞いてきた。


腕や顔にアザがあったことや、最近無断で欠席することなどもあってどこからか児童相談所に相談があったのだという。

─まさかうちの親がまた通報したのか?!─


私は最近のタクちゃんの様子を話した。

「プロレスごっこですか、なるほどです。ご協力ありがとうございました。」

二人は私にペコリと頭を下げて車に乗り込んでいなくなった。

それと同時にタクちゃんちのアイホンのライトが切れた。

─見られてた?─


私はなんだか気持ち悪くなって家に入った。

夕飯のときに親にその話をした。

「お父さんもお母さんもそんな通報してないぞ?」

「そうよ、また誤報なんてしたら大変だもの。」

「そうだよね。他の近所の人かな。」


翌日ルイにその話をすると「それ、うちの親だわ」と言った。

ルイの家からはちょうどタクちゃんちの庭が見えるのだという。

夜中にタクちゃんがパンツ1丁で庭に出されていたと言うのだ。

「お仕置き?」

「それにしても今どきそんなことする?ってなって、うちのおかんが児童相談所に電話したみたい。」

─ぜんぜん気がつかなかった─


「まぁ、それで風邪引いちゃったみたいだし、やりすぎましたってお母さんが謝ってたみたいだけどね。」

「そうなんだ。かわいそうにタクちゃん。」


そして私たちはクラスの作業とバンドの練習と忙しくしているうちにタクちゃんちのことを忘れていた。


────


生の演奏に合わせて歌うのは、なかなかに気持ちのいいものだった。

即席のバンドとは言え、みんな各々のレベルが高く、思いのほか素晴らしい出来だった。

「ごめん、ボーカルが足を引っ張って。」

「そんなことないよ!アオちゃんの意外な才能が開花しちゃってるよ。」

ワタルは王子の笑顔でそう言った。

─松田さんなら倒れてるかもしれない─


「家でも練習してくるよ。」

「アオは完璧主義だからなぁ〜喉潰さないように気をつけてね。」

「そうだね、喉の管理も徹底しないと。」

私は喉のケアを調べた。

「じゃあまた明日。」


私はスマホで原曲を聴きながら帰った。

男性のボーカリストの歌を女性が歌う時点で難しい気がする。

私は険しい顔で歩いていたに違いない。

すれ違う人たちが変な顔で私を見ていた。

─キラキラ失格だな─


公園の横を通るときにタクちゃんのことを思い出した。

今日は公園にはいないようだ。

そう言えば、あれから姿を見ていない。

登校時の取り巻きの女子たちもすっかり姿を見せなくなっていた。


私はルイが言っていた庭に出されていた話を思い出した。

風邪を引いたと言っていたがこじらせてしまったのだろうか。


─まさか児童虐待?!─

私は何度もその可能性があることが目の前にあったのに本気で考えていなかったことに気がついた。

あのナマイキなタクちゃんにそんなことがあるなんて思わなかった。

いや、思いたくなかったのかもしれない。


私はその日すぐにルイにメッセージを送った。

『タクちゃんに何かが起きているかも?ときどき様子をみてみて』

『最近は昼間もカーテンがかかっているよ 何かあったかも』

私とルイはそれからタクちゃんの様子を探った。


────

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