chapter77 やってきたホブゴブリンたちの決断
おれが挑発すると、やってきたホブゴブリンたちは明らかに険悪な雰囲気を醸し出し始めた。
その空気を察したのか、周囲にいた仲間のゴブリンたちは少し距離を取っていく。犬たちも、いつでも飛びかかれるように戦闘態勢に入っていた。
――もちろん、おれが挑発したのには理由がある。
ひとつは、戦闘について。
もうひとつは、こいつらが利口かどうか。
まず、戦闘能力について。
こいつら、おそらくだけど魔法も気術も使えないし、そこまで力があるとも思えない。
元ボスのボレスたちも、正直そこまで強くはなかった。
仮に、こいつらがうちの群れに加わるとしても、“新入り”としての立場になる。
うちのゴブリンたちは、狩り組やホブたちから戦闘訓練を受けていて、それなりに戦えるようになってる。
たまにホブに挑むゴブリンもいるし、低確率ながら勝つやつもいるくらいだ。
そしてもう一つ。
この挑発で、こいつらが“おれの真意”に気づけるかどうか。
もし、この状況でおれたちに戦いを仕掛けてきたら、確実に負ける。
それどころか、仲間として潜り込んで後から裏切るような奴でも困るし、無謀に突っ込んでくるような奴も正直扱いに困る。
どこの世界も結局、“強さこそ正義”な面はある。
それは否定しないけど、行きすぎはよくない。うちでは下克上も許してるが、実際、おれに挑んでくる奴はまだいない。
ちなみに、うちのゴブリンたちはホブに勝っても、態度を変えることはあまりない。
“教師と生徒”に近い感覚なのかもしれないな。
……そんなことを考えながら、目の前のホブゴブリンたちの様子を伺っていると――。
「ちょっといいっすか?」
と、彼らの中の一匹のゴブリンが、首を傾げながら問いかけてきた。
「なんだ?」
「さっき、“仲間ではないやつに食料を渡す余裕はない”って言ってましたけど……。
逆に言えば、“仲間になれば、食料をくれる”ってことっすか?」
お? 意外と利口だな。
ゴブリンで、そこに気づくとは思わなかった。
おれが返事をしようとしたそのとき、ホブゴブリンが割って入ってきた。
「それは……本当か?」
「ああ、本当だよ。
ただし、うちのルールは守ってもらう。それが条件だ」
「……なら。仲間に入れてくれ」
険悪だった空気がすっと消え、ホブゴブリンたちは静かに頭を下げて、そう言った。
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