第九話
「ふぁ〜」
ノアが背伸びをしながら階段を降りてきた。
「おいお前今何時だと思ってる。俺は8時にここに来いって言ったよな」
「まだ8時10分じゃないですか、セーフセーフ」
そういってノアはダラダラと階段を降りた。
「やっぱりこいつは追い出しとけばよかった……」
村長は呆れてため息を漏らした。
ノアは頭をかきながら
「で話って何?」と舐めた態度を取っていた。
「まあ昨日いったとおり、お前ら冤罪で追われているんだろ。だからこの村で匿ってやる。でもな、ただで匿うわけにも行かねえ、だからお前らには仕事を手伝ってもらう。お前らここがどんな場所か知ってるか?」
「検問所ですよね」
「正解だ嬢ちゃん、ここはイポクレアに入る前の検問所になってる」
「そんなところが私たちを匿って大丈夫なんですか?」
「まあ、ここに入るやつはほとんど昔、あの街の大規模な政治反対デモに参加して飛ばされたあの街の騎士団だからな。最後の砦となってあの街を守るために忠誠誓って検問してるヤツなんていないがな、だがこれで食わせてもらってるから文句たれながらでもやるしかねえ。まあとにかくお前らには検問所の中の荷物確認の仕事をやってもらう。じゃあ、今から行くぞ」
そういって村長は私たちを仕事場へと連れて行ってくれた。
検問所は8つほどあり一つ一つのスペースには荷物を広げるための長い机が置いてあった。
「じゃあ、お兄ちゃんは1番、お嬢ちゃんは2番にいきな、詳しい内容はそこにいる係りの人に聞け。」
そういって私たちの背中を押して早く行くよう催促された。
二番窓口には茶髪を縛った30代くらいの女性がいた。
「あなたがエイバちゃんかな。私はケイと呼んでね。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、あなたは申告された品物と荷台にある品物が一致してるか確認してくれるかな。個数と品物が合ってたら横にチェックをつけてね」
するとその人から品物とその個数が書かれた紙が渡された。
「はい、これ確認して」
私はそれを受け取り、言われた通り、目の前に止めてあった馬車の中に入り、荷物を数え、鉛筆でチェックをつけていった。
「できました」
私はチェックをつけた紙をさっきの人に戻した。
「おお、早いね、じゃあ次もよろしくね」
作業は言われた通りシンプルなただの単純作業で、淡々と仕事をこなすことができた。
反対側でノアも同じ仕事をしており、そちらも順調であるように見えた。
検問所が8つあるとはいえ活気のあるイポクレアに入る前の検問所なのでどれだけさばいても途切れず馬車が来る。
気づけば太陽は真上に上がっていた。
「エイバちゃんそれ終わったら昼休憩ね」
前半最後のリストを渡した。
「お疲れ様〜ありがとう、じゃあ、次の仕事は2時くらいからだからそれまであそこの休憩所で休んでて」
そういって二番窓口の女性は近くの建物を指さした。
――検問所だから難しそうって思っていたけど案外なんとかなりそう
安堵して休憩所に向かった。
2時からまた作業が始まり、そのあともさっきと変わらずさほど難しい事はなかった。
「エイバ次もよろしく」
「わかりました」
さっきと同じようにチェックリストを受け取り、荷台に入った。
「ええっと、酒樽が2つ、穀物の袋が5つ…」
「おい」
いきなり肩を叩かれ体がビクンとした。
恐る恐る後ろを振り返って見ると黒色のポンチョを着た人が後ろに立っていた。
その人はフードを深々とかぶり顔が見えなかったが声から女性だろう。
「おまえ、追われてるよな。証拠がある。仕事の昼休みにこの村の西側の森に来い。一人でな」
「は、はぁ」
私はいきなりのこと過ぎて腑抜けた返事になってしまった。
「エイバまだ〜?」
「あっ、ちょっと待ってください」
ケイさんの声が聞こえるとその人はすぐに荷台から降りて消えて行った。
そして太陽が赤くなった頃に初日の仕事が終わった。私はすぐに言われた場所にむかった。
「エイバどこに行くの?」
休憩所に向かう村の人たちと逆方向に行く私を見てノアは不思議そうな顔をした。
「ちょっと気分転換で散歩かな」
「ふーん気をつけてね」
言われたところに行くとさっきと同じ服装をした人が木にもたれかかっていた。
「来たか遅いな」
「なんの用でしょうか」
すると正面の女性がフードを脱いだ。
「私はVFAのリーダー、タブスだ」
目の前には口と耳にいかついピアスをつけたファンキーな女性がいた。
「お前、今警察に追われてるんだろ。」
「はい、そうです」
すると目の前の女性はポケットからなにか紙状のものを取り出した。
「これを見ろ」
彼女は一枚の写真を見せて来た。
「これは…」
それを見て思わず前のめりになる。
「見ての通りケイドン・パーカーがお前の両親を殺している真っ最中の写真だ」
「その写真をくれませんか?今必要なんです!」
しかし自分の要求に反して彼女はポケットにそれをしまった。
彼女はトントンと靴を鳴らしながら私に近づく。そして一気に顔を近づけてきた。
「私らはお前になんの借りがあるんだ?ただで渡すわけねえだろ。」
私は覇気に押されて汗が止まらなかった。
「この写真を渡すのには条件がある。10日後にまたお前のところに行く。それまでにお前の大切なものを用意しておけ、それと交換だ。いいな」
「大切なもの……?」
意味がわからず、聞き返してしまった。
「それぐらい自分で考えろ。なんでもいいわけじゃねえからな。持ってきたらちゃんと精査するぞ」
「は、はい……」
その人の威圧に負けて、反射で首を縦に振ることしかできなかった。
「あと、このことは誰にも言うなよ」