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第五話

そうしてノアについていきその宿の前に着いた。


段々と雨がやんでいき、空にあった灰色の雲も掃けていった。遠くでは雲の隙間から真っ赤な日が半分まで沈んでいるのが見えた。


「今日はここで休みな、これからのことはあした考えよう」


中に入ると中年くらいの男性が受付のところに立っていた。


「この子を一泊させたいんだけど、空いていますか?」


ノアは私の背中を押して前に出した。


「ああ、空いているよ」


「じゃあお願いします」


そう言ってノアはお金を出そうとした。


――はあ、やっと休める


寝られる場所を確保できて私は安心した。


緊張の糸がやっとほどけて眠くなって来る。


すると急に受付の男性の顔が曇った。


「お前らどこかで見たことがある気がするんだよな」


男性の鋭い指摘に私は反射的に下を向いてしまった。


ノアは、はぐらかすように「気のせいじゃないですか」と言った。


それでも男性の「ん~」という考える声は聞こえ続けた。


その時「あっ、お前ら!」という何か何かをひらめいたような声が聞こえた。


繊細になっている私はその声にびっくりして思わず顔を上げてしまう。


するとそこには急に顔を青ざめていた男性の姿があった。


そしてその男性は慌てて、近くにかけてあったショットガンをこちらに向け、


「お、俺は見たぞ!お前らが人殺しで警察に追いかけられていたのをな!は、早くこの店から出ろ!」


と声を震わせながら言った。


初めて銃を突きつけられ、私の心臓は今までに無いくらいに速く、大きな音を立てて鳴っていた。


「一旦落ち着きましょうよ~」


ノアはなんとかその男性をなだめようとする。


だがそれに反してバンという音が鳴った。


「さっさと出頭しろ!今のは空砲だが次は実弾だぞ!」


私は恐怖で自然と涙が出ていた。心臓の鼓動が体全体に響く


するとノアが両手を上げた。


「わかりました。私達はやっていませんが、今のあなたには何を言ってもだめでしょう。今回はあなたの言うことに従いましょう」


そして私の腕を引っ張り、その宿を出た。


宿を出るとそこには恐らく銃声を聞いて集まってきた人たちが大勢いた。


その人達は私達を見ると急にざわめき出す。


「人殺しはさっさとつかまれ!」


という叫び声が聞こえた。


すると周りの人はそれに共鳴したように次々に罵詈雑言を飛ばしたり、こちらに向かってものを投げたりした。


またそれ以外の人びとも私達を疎外するような冷たい目でこちらを見てくる。


私は心が痛くて思わず心臓を押さえた。


「こっちの道を使って、一旦僕の家まで逃げよう」


ノアは私の腕をひっぱり人々がいる方向とは逆にある細い道に向かった。


後ろからは「逃げるな!」という声が聞こえ続ける。


そんな声に構わず必死にノアについていきながら走った。


数分ほど走ったあとノアは止まった。


「ここが僕の家だよ」


中に入ると「そこに座りなよ」言われ、私はテーブルの近くにあった椅子に座った。


「今何か作るから少し待っててね」


ノアは台所の方へ向かった。


辺りを見回すと、家の中は整理整頓されており、掃除もこまめにしている感じはあった。


が、古いせいか、汚くは無いがきれいというわけでもなかった。しばらくすると台所からいい匂いがしてきた。


「できたよー」


そう言ってノアが野菜スープを持って台所から出てきて、私のテーブルの前においた。


その後パンも持ってきた。


「ごめん、急いで作ったからこれしかできなかったけど許してね。じゃあいただきます」


その時、食欲はなかったが、お腹は減っていたようで、スープとパンを食べる手は止まらなかった。


そうして無心で手を動かしていると、すぐに食べ終わってしまった。


「ごちそうさまでした」


食べ終わると少し心が落ち着いた。それと同時に疲れもどっとやってきて、眠くなった。


それを見たノアが「僕が片付けるからそこで寝てていいよ」と言った。


私はそれに甘えて目をつむった。


そしてすぐに椅子の上で眠りについてしまった。


パリン


そんな音が聞こえて私は目が覚める。


――ん?なんだろう


すると外から「人殺し出てこい!」という大きな声が聞こえた。


――まただ……


私は嫌になって机に顔を伏せた。


1日中非日常にさらされ続けたメンタルは限界を迎えていた。


そのせいか、危険が迫っているのがわかっていても一ミリも動く気になれなかった。


――どうしてこうなっちゃうのかな~



「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」


急に笑いがこみ上げて来た。


――明日の授業って何あったけ?今日の晩ごはん何か楽しみだな~。


明日友達と何喋ろうかな?フフッ明日も学校行くの楽しみだな~あっ 今お母さんに呼ばれた気がする『はーい、今行くよー』


現実逃避したいためかそんな私の現実では起きない夢物語がひたすら頭をよぎった。


「Shhhh」


ノアは私のことを優しくハグした。ノアの優しいぬくもりがじわじわと体とこころを温めてくる。


私はスッと笑いが押さまった。


「落ち着いた?」


すると体が急に軽くなった気がした。


はっとして周りを見ると私はノアにおんぶされていることに気がついた。


ノアは私と自分の袋を背負って家の裏口の戸を開けた。


その時私はずっと意識が朦朧としていた。


そして目をつむってしまった。


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