第十話
あの人と話しているときは夕焼けの赤で眩しかったのに、私が食堂に着いたときには
辺りは真っ暗になっていた。
「エイバどこ行ってたの?心配したよ」
食堂に行くとノアはステーキを切りながら聞いてきた。
「ちょっとそこまで気分転換で散歩かな」
「ふーん、そっか。」
少し謎の間を開けてから、ノアはメニュー表を渡してくれた。
「エイバ何食べたい?」
「じゃあノアと同じやつで」
するとノアは店員さんを呼んで同じものを注文してくれた。
「そういえば将来の夢とかあるの?」
ノアがいきなり脈略のないことを聞いてきたので返答に困って、目線を下に落とした。
「特にない」
「そんなのもったいないな〜」
そう言ってノアはフォークに刺さっているブロッコリーを口のなかに入れた。
「決められるならそうしたいよ」
ノアはフォークを置いて私の目を見た。
「まずはね、自分がなにをしたいのかっていうことを考えるといいよ」
そっとノアから目をそらして、真っ暗な窓の方を頬づえをつきながらながめた。
「したいことなんてない」
するとノアのため息が聞こえる。
「そんなわけないじゃん。だったら君は何を糧に生きてるのさ。」
「惰性……」
呆れたのかノアも頬づえをしだした。
「はあ、真面目に答えてよ〜」
「そんなんだったらとっくに決まってる!」
立ち上がってバンと机を叩いた。そして私はうでをまくった。
ノアは珍しく驚いた顔を見せた。
「その腕の火傷の痕は何?いつできたの?」
「自分が愚かものだからできた痕だ」
私は静かにまくった腕を戻した。
「私は自分が信じられない。だからずっと他の人の指示に従って生きてきたんだ。自
分の思いなんてないよ。」
ノアに背を向けて出口へと向かう。
その時後ろでガタンと椅子が動く音が聞こえた。
「そんなわけない、人は脳を使う限り自分の思いができるはずだ!」
ノアのその声には必死さが込められているのが分かった。
「ああ、そう」
そう吐き捨ててその食堂を出た。




