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ニヅくん

同族化させてくる同居人

作者: ほた

Twitterでのよそのこ小説。

なんか変かもしれないけどお楽しみください(?

 ―――――うちには、ちょっと変わった同居人が居る。

「ねえねえ!今日は何するのー?」

 そう興奮げに話しかけてくるのはしっとりした黄色の毛に覆われた同居人の“ニヅ”だ。


 …ニヅは1年ほど前、自分がよくわからない組織の施設に拉致られた時その施設にいた奴で、色々関わってるうちに変に懐き、施設を脱出してからは家に着いてきてそのまま住み着いているんだが、細かい説明は割愛する。それよりも…

「…今日は予定入ってて忙しいから、遊んでる暇は無いよ」

「えー?!つまんなーい、かまえー!」

 こんな感じでいつも付き纏ってくるから、自分のしたい事も出来やしない。


 ぶーぶーと抗議するのを聞き流し、久し振りに散歩やらでもしようかといそいそと出かける準備をしていると…

「むぅ……そいや!」

「わっ、こらっまた…!」

 頭にベチャっとした感覚がすると、ドロドロとした黄色い液体が自分の体の表面を這う。腕や、足に、顔に。抗議の声を上げようとした頃には、もう口が塞がれ、声が出なくなっていた。

「………!」

 体を覆った液体は口や目等を塞ぎ、息苦しさに襲われる。

 それに合わせて身体の形も変わっていく。急な変化に立って居られなくなり、前に倒れ込んだ。


 ……やっと、体が大人しくなった。目も開けられる。開けると、目の前にニコニコしたニヅがいた。

「えへへ、これでいっしょ」

「…お前なぁ……」

 そう。ニヅは粘液の様な体を持っていて、こうして人の体を粘液で覆って自分と同じ様な体にしてくるのだ。…ここの所、殆ど毎日被害を受けている。お陰で好きに出かけることも出来ない。


 嫌がらせでやってるのか、純粋に楽しんでるのかはわからないが、多分後者だ。こうして同じ見た目にさせた自分にいつもよりスキンシップが激しい。思いっきり抱きついてきたり、犬や猫の様に体を擦りつけてきたりする。仲間ができた様で嬉しいのだろうか。


「全く、今日こそは出掛けようと思ってたのに……」

「じゃあ、一緒にお出かけする?」

「…無理」

 この姿で外に出たらどうなるかわかったもんじゃない。無理に外は出ない事にしているので、仕方なく家での遊びに付き合わされる事になる。結局いつもと同じだ。


 この体には未だ慣れない。鏡を見ても、これが自分とは思えない。


 視界の下には前に伸びた自分のマズル、頭の上に立っている大きな三角耳、腰の辺りから伸びたフサフサ(に見えるけどニヅの体と同じ質感)の尻尾、見れば見るほどニヅにそっくりで、あいつの体格をそのままでかくした様な姿だ。


 …あーあ、今日こそ外に出ようと思ったのに。仕方ない、今日も出前に頼るか……

 そう思いながらスマホを持つ。最初は慌てるのもあって毛に包まれた手でスマホを持つのに苦労したけど、最近コツを掴んで落とさずに持てる。毛、しかもどろどろの体じゃ反応しないかと思ったけど意外と反応するし、そんなに不便ではない。

 …頼んで…完了っと。


「ねーねー!今日は何何ー?」

「うるさいな……ただのお弁当だよ」

「中身はー?」

「来てからのお楽しみな」

「えー」


 そんなやりとりの数十分後に、家のインターホンが押された。

「来たっ!!」

「はいはい、出ないで待ってろよ」


「すみませーん」

 ピンポーン、ともう一度インターホンが鳴らされる。はいはい、今行きますよっと…歩きづらいけど。

「はーい」

「出前でー…えっ?!」

「え?……あ」


 しまった、やってしまったと思った。

 ついこの姿にされることに慣れてしまい、そのまま出てしまった。


 一瞬固まってしまったが、とっさにドアを閉めた。

 息を整えようとしてもバクバクと鳴る鼓動と後ろで動く尻尾は収まってくれない。


「あのー…」

「はっ、はい!あの、荷物そこに置いといてくださいっ!」

 玄関越しにそう叫ぶと、困惑した声で「…わかりました」と聞こえ、足音が遠のいていった。







「…………っはぁぁぁぁぁ危なかったぁぁぁ」

 緊張して無意識に止めていた息を吐き、呼吸を整えてからドアを少し開けて周りを見る。

「もう居ないよな…?」

「ばあっ!!」

「うわああああ!?」

 後ろから突然大声を出され、びっくりして飛び退き、思いっきり家の外に出てしまった。


「えへへへ、びっくりした?びっくりした?」

「急に驚かせるな!」バレたらどうするんだよ!」

 荷物を回収しドアを閉めてからニヅに向かって怒鳴る。初めてこんな大声をニヅに向かって出した事もあり、ニヅの体はビクッと震えた。

「…ご、ごめんなさい」

「バレたらどうするんだよ!」

「…ばれたら…どうなるの?」

「それは……なんか、テレビとかで見せ物にされたり…実験とか、されたり…とにかく痛い目に会うかもしれないだろ!」

「なんで?」

「っ…それは……お前は人間とは違うからだよっ」

 ニヅからの質問に、半ば苛立ちながら答えていたその時。



「…じゃあ………みんなぼくと同じになればいいんだね」

「……え?…あ、おいこら待て!」

 俯いて意味深気に呟いたニヅは、静止を振り切って走っていった。

 家のドアを開け、振り返りもせずにどこかへ走り去ってしまった。

 それを見ながら自分は、止められなかった事や感情的になってしまった事を悔やんだが既に遅かった。









 それから数日経ち、ニヅはまだ帰ってこない。

 更に、いつもなら数時間で戻っていた自分の体も戻っていない。

「なんだよこれ…いくら引っ張ったりしても取れない…いつもならちゃんと戻れてたのに………」

 家の中で自分の体をぐいぐいと伸ばしながらそんなことを呟く。生憎自分をこの体にした張本人はまだ帰ってない。

「………くそ…」

 何故こうなってしまったのか、あいつは今どこにいるのか。

「何にもわからない……」




 自分で外に探しに行くわけでも特に何かやる事がある訳でもないので、テレビを付ける。ニュースがやっていた。

 その画面と内容に唖然とした。




『謎の黄色い生命体とそれによる住宅街の浸食』





「…なん…で……」



 画面には、家の壁や地面だったであろう場所が黄色い液体のようなもので覆われ、そこら中に自分と同じ様な姿の獣達が徘徊しているのが映っていた。


「なんで急に……もしかして…あいつの仕業か……?」

『みんなぼくと同じになればいい』という言葉の意味がわかった。あれはそっくりそのままの意味だったんだ。

 そうすれば自分が「おかしい存在」では無くなると思ってやった事だと理解していると、カメラを持ったテレビのアナウンサーが少し離れた場所から中継中に突然黄色の地面が盛り上がり、そこからニヅが姿を現した。アナウンサーは小さく悲鳴を上げ、カメラを落として中継画面がぐるんと周り、地面に落ちた。




 スタジオと自分が動揺に包まれる中、カメラを持っていたアナウンサーがニヅの体に覆い被され、飲み込まれる様にして黄色い獣と化す一部始終が映し出されていた。


 スタジオは一気に騒ぎ出し、誰もが大慌てだった。喚きながらスタジオから走り去るコメンテーターもいた。


 慌ててテレビの電源を落としても、焦りがぐるぐると体の中を駆け回り止んでくれない。

「どうすれば…いいんだ……?……でも」

 ニヅを止めるしかない。そう判断した僕は身一つで外に出た。





 風が気持ち良い。いつもより足が速い。通行人が悲鳴を上げる……そんな事は気にしてられず、ただひたすらニヅを探して走った。

「どこだ…どこなんだ……ニヅ……!」

 どこか分からずにただ走るだけだが、なんとなくニヅのいる方角がわかるような気がした。その感覚だけを頼りに探す、探す、探す。

 いつしか通行人は誰もいない。向こうには黄色の景色が見えてきた。

「あそこだ…!」

黄色の大地の前に立ち、叫んだ。

「ニヅーーーーーーーーーっっっ!!!!」



 返事はない。それでも、諦めずに探す為に黄色の液体に足を踏み入れる。雨の日に裸足で水たまりの上を歩いているようで、あまり居心地は良くない。

「ニヅ…どこにいるんだ…ニヅ……うわっ!?」

走って探そうと足を速めた瞬間、片足を掴まれベシャッと倒れ込んでしまった。

「お兄ちゃん…ここだよ」

「ニヅ…」

足を掴んだのは、地面の液体と同化していたニヅだった。

「なんでこんな事してるんだ!」

また怒鳴ってしまった。ハッと気付いた時にはもう遅かった。ニヅは下を向き、ぼそぼそと話し始める。


「だって……こうすれば…お兄ちゃんと一緒におそとで遊べるから……」

「…お兄ちゃん…?」

「…ずっと、家にいなくても、よくなると思ったから……!」

「…な…っ」

「…助けてくれたお兄ちゃんが、大好きだったから……っ!」

「……」

「だからお兄ちゃん……いっしょになろ?」

「…え?」


気がついたら、足元にニヅがまとわり付いていた。動けない。

「はじめっから、こうすればよかったんだなぁ……」

「お、おい待て、ニ―――っっ!?」

足元から段々と下から身体が覆われ、全身動けなくなると共に口から、目から、鼻から、耳から自分の中にニヅが流れ込んでくる感覚がした。

自分が自分じゃなくなっていく感覚に、抵抗も出来なかった。

そうして、僕の意識は暗転した。






「…やっと……いっしょになれた……お兄ちゃん」

「……お兄ちゃんのために……2人でくらせるために、頑張るから……」









「だいすき」

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