ギルドと喧嘩とお仕事と
「こんにちは。どう言った御用件ですか?」
村の中でも一際大きい建物。ギルドと呼ばれる冒険者の職業を斡旋する施設に私たちは居た。
「おい、ゴブリンなんて連れてやがるぜ。野蛮な野郎だ」
「変な服装ね」
ヒソヒソと小言が聞こえるが無視して受付嬢に返事をする。
「この子から聞いてきました。私も仕事が欲しくて」
「依頼を受けるには登録が必要です。その方向でよろしいですか?」
「ええ」と返すとカウンターの下から一枚の紙を出す。
それに書かれた文字を、私は全く理解出来ていない。
「えっ――――と。ミアさん。ここに注意書きが書かれていて、こっちが申請するための条件です。私が読み上げますね」
「文字も読めねぇのかあの女」
また小声が聞こえてくるが無視してリルに翻訳を頼む―――
「書けました」
「あ、お名前が・・・ユーフィナ共通語でお願いします・・・・・・」
半ば困惑気味に紙を返される。
「ごめんなさい」と謝罪すると、再びリルに頼んで教えてもらう。
「これで大丈夫ですか」
「はい。・・・・・・確認しました。早速手続きをさせていただきます」
「少々お時間いただきますね。一時間後に再度受付までお願いします」
それを聞くと、四人で玄関にある椅子に腰をかける。
「おいおい、そのゴブリンはなんだ?ハハッ悪趣味なペットか?」
「ふざけるなよ。この子達は仲間だ。バカにするな」
汚い、隅にサビがある鎧を胸に着けたガラの悪い男が一人―――
「ハハハッそりゃ失礼。そんな野蛮なモンスターを仲間と抜かしやがる間抜けとはな」
「ビギギ!」
二人のゴブリンは互いの棍棒をかまえ、男を睨みつける。
「なんだ、やろうってか?表に出な。ペットを冥土に送ってやるよ」
「み、みみミアさん!場所を変えましょう!」
「喧嘩を売られて逃げたくは無いわね。良いわ。表に来い」
リルの制止を振り切り。立ち上がる。
私はできる限りの睨みを男に向けた。
▲▲▲
クスクスと笑う男と5m間隔をあけて仁王立ちする私。
スペシャルメニューとやらからすぐさまテーザー銃を探す。
―――あった―――
取り出し、安全装置を解除。既に周りには見物人がたむろしている。
「こっちからやらせてもらうぜ!」
鞘に入れたままの剣を横向きで持ち突進してくる男―――
「お疲れ様」
一言つぶやくとテーザー銃の引き金を引く―――
「が、あああ」
右太ももに命中すると男は膝から崩れ落ち、ビクビクと痙攣をしていた―――
「なんだなんだ」
「電気魔法か?」
群衆は直ぐに決着の着いた喧嘩に、憶測を飛ばす。
「み、ミアさん!相手死んでないですよね!?」
「多分大丈夫。そのうち元に戻るわ」
そう言うと、ゴブリンもつれて直ぐさまその場を後にした。
◆◆◆
「これで、手続きは完了しました。こちらをどうぞ」
小さな木でできた黄色の薄い円形のドックタグの様な物を受け取る。
「そちらが冒険者の等級を表す標識です。今の貴方は最下層のクラスです。依頼をこなして行くにつれて等級が上がります。最上位の金を目指して頑張ってください」
「はい!誠心誠意頑張ります」
笑みを浮かべながら受け取る。そしてすぐさま本題へ―――
「早速依頼を受けたいのですが―――」
「申し訳ありませんが、手続きの次の日までは依頼はお受けできません」
「そんなぁぁ!!」と嘆き、私は崩れ落ちた・・・・・・
◆◆◆
泣く泣く再びリルにご飯を奢ってもらい、宿に戻る。
「ちょっとあんたら。ゴブリンを連れてるって?」
ビクッと布で包んだゴブリンを抱える私達は、やってしまったと内心嘆いた。
「まあ、そのなんだ。あまり部屋を汚さんよう気をつけてくれな」
昼間の件と言い、出禁を覚悟していた私達は思いがけない言葉に喜びを表すかのような笑みが浮かぶ
「「はい!」」
▲▲▲
床に伏す四人・・・・・・
「ごめんなさい。初日から依頼が受けられないなんて知らなくて」
「こっちこそ。これじゃ私はリルちゃんのヒモ。迷惑かけてごめんね」
「全然大丈夫ですよ」と一言返される。きっとお世辞なのだろう・・・・・・
「で、でもそろそろ私も仕事をしないと」
「うぅ。ほんとごめんなさい・・・」
「大丈夫ですから〜!」
◆◆◆
「初めての依頼でしたら、近辺の村から出ている害獣駆除をおすすめします」
「報酬は?」
「1レニと銅貨5枚です」
むむむ、これじゃあ割り勘の宿代で半分ほど消えてしまう。
「リルちゃん、どう思う?」
「そうですね。今が朝の9時ですから、午後にもう一仕事しますか?」
「そうしよう」一言言うと受付嬢に依頼を聞く。私達は午後の仕事を別の村から出ている害獣駆除に決めると、直ぐさま一つ目の仕事へと向かった―――
◆◆◆
「これ、食べれるかな」
「猟師の間では、結構人気だそうですよ」
目の前に横たわる一匹のイノシシに似た獣。一番の違いは大きな角が一本、ユニコーンのように生えている。
ウェドボアって呼ばれる平均的な獣系のモンスターを見て、一日中森を駆け回り、銃を撃つ度逃げ回るこいつらを追いかけ回した私達に、疲労感と空腹が襲ってくる。
「とりあえず、証拠の角を剥ぎ取りましょう」
リルがウェドボアの角を、根元からはぎ取る。その際に使うナイフを見て私は腰に吊るしたナイフを取る。
「リルちゃんにプレゼント。これならそのチープなナイフより役に立つはず」
錆び付いた長めのナイフをもつリルに、柄を向けて渡そうとする。
「ははっ。やっぱりボロボロですよね。ありがとうございます・・・でも、良いんですか?私にあげちゃって」
「とりだ―――まだ予備があるから大丈夫よ」
ついつい漏れそうになったがリルは首を傾げるだけで作業に戻った。
「これで、何とか十体・・・ここで解体して肉を持っていこうか」
「えっ。でも私捌けないですよ」
「大丈夫、昔お父さんがやってるの見てたから多分何とかなる、かな」
召喚しておいたナイフを手に、ツノを取り終わったリルとバトンタッチ―――
▲▲▲
「はあ、はあ。何とかなった」
想定外の重労働に上手くいかなすぎて疲労感が一層押し寄せる。
「報酬を貰ったら八百屋で野菜を買って、パン屋でちょっと硬いパンも買おう」
「宿屋の共用スペースにあった食器で何とかなりそうだしね」
リルが解体中に村から借りてきたシャベルで穴を掘り、残骸を埋葬―――解体した肉を持って、ギルドへ戻った。
◆◆◆
キッチンに並ぶ赤い肉と野菜たち。
「よしよし」
オリーブドラブの、中央に「U.S.Marine」と書かれたタンクトップを来た私は、早速調理に取り掛かる。
ルーの事を忘れていた為、何とかそれっぽいものを見繕った。
「まずは、皮むいて野菜を切りますかね」
最初にミャロットラと呼ばれるニンニクの香りが漂う細めの人参の皮を剥き、短冊切りにする。次にナラオンと言う黄色の玉ねぎを切る。玉ねぎと違い目が滲みてこない。
「ぎゃび!」
お腹を好かせたゴブピイがうずうずしている。
「もう少し待っててね」
「ぎ」と返事をしたゴブピイは、椅子にちょこんと腰かけた。
何とかラッティスと呼ばれるアスパラ似の野菜と、丸芋を切り終わると鍋にウェドボアから取った油を敷き、ナオランを最初に炒める。玉ねぎと同様の香ばしい匂いが漂う―――
元々身が黄色がかっていたナオランがキツネ色になったのを見てブツ切りにしたウェドボアの赤みを投入。
「おおっ。料理中かの?」
受付の店番―――店主の父親が現れた。
「こんばんは。ウェドボアの肉でシチューを作ってます」
「そうかそうか、ゴブリン君はそれ待ちかのぉ?」
「び」っと背中の方からゴブピイの返事が聞こえた。
▲▲▲
全ての材料を投入し、水を入れ沸騰させた。
「上手く行きますように」
そう言うと元々リルが持っていたトマト(これは元の世界と共通)をすり潰して投入。この時ほどフードプロセッサーがあればと思ったのは初めてだった。
再びひと煮立ちさせてから、店で売っていたキューブ状の顆粒だし―――どうやら粉を固めるポーションがあるらしい―――を二粒ほど入れてから赤ワインを入れる。
最後に、塩と蜂蜜で味を整え完成した・・・・・・
▲▲▲
「食べよ食べよ!」
私達は早速シチューを口にする。
「う・・・ん。ビミョー」
「そそ、そんな事ないですよ!ほらビリヤ達も喜んでます」
「やぎゃ!」
二人のゴブリンは空腹のあまりシチューをガツガツと食らっていた。
実力不足を気にしながら渋々パンを付けて食べる。
だが、ウェドボアの肉は歯切れのあるほんのり牛肉風味の豚肉といった味わいでとても美味い。
「料理、勉強します・・・」
「ゴブリンへの風当たり」
基本的な人間、亜人種からは野蛮で低能な二足歩行生物と見られており、凶暴な個体が多数であり害獣的な立ち位置で考えられている。
「ユーフィナ共通語」
ミア達がいる国及び大陸で広く使用されている文字。




