緑の小人、ゴブリン
茂みの中、眼前に立つ緑の小人・・・・・・
「ほわぁ!な、なんだ!?」
純粋さが有るその瞳に、何となく敵意がなさそうであると感じる。
「ぶえあ!ンギ、ヤギァ!」
鳴き声としか認識していないが、明らかに何かを訴えているその存在は、すぐさま反対の獣道へと走っていく。
振り向いて「ホギ!」と、一言話すとまた走って行く。
それについて行くように足が動いていた。
◆◆◆
たどり着いた先は、一つの原っぱ。
「う、動くな!!」
目の前に居た、二人の人間―――白人の男女にM5の銃口を向ける。
男女は中世ヨーロッパの甲冑を着て、緑色の小人三体を古い刀剣で切りつけ、鉄製の棍棒のような武器で殴りつけている。
「なんだお前は?今仕事中だ」
「ふ、ふざけるな!これは明らかな暴行よ!やめなさい!!」
一体の小人はついに息絶える。
「村人に雇われた。村を定期的に襲うゴブリンの駆除をな。お前こそなんだその格好は?」
「あんたらこそ!その古くさいヨーロッパの格好で、彼らに危害を加えている!!」
「バカが!もう黙ってろ!!」
「ふざけた女ね」
二人は無視して緑の小人をさらに切りつけた。
それを見て、弾倉を入れて安全装置をセーフティから単発に切り替え。空に銃口を向け私は引き金を引いていた。
「ッッッ!!なんだ!魔法か!?」
「な、何あんた!?」
銃口を男女に向け直す。
「これ以上の犯罪行為は無視できないわ!次はあなた達を撃つ!!」
「ふざけんなこのキチアマァ!!」
男が剣を構え、突進してくる。距離は約7m―――
引き金を二度引く。
「ッはァッ!」
胴体に二発の6.8mm弾が貫き、後ろ向きに倒れる。
「ひィッ!化け物めぇ!!」
女も、鉄の棍棒を振り上げて突進―――再び二発の弾丸を撃ち出す。だが、二発とも不命中―――
一気に向かってきて、ヘルメットに殴打が命中しそうになるが既で右にかわす。振り下ろされた棍棒の先端部分が左太ももに命中。
「ひぅぅっ!!―――クソッタレエェ!!!」
ついつい暴言が出るが痛みを無視して銃底を思い切り相手の顔面にお見舞いする。
「あがっ!!」
「ふざけんな!!死ねクソ!」
一気にM5を腰で構え引き金を何度も引く。
気が付くと相手は倒れ、血をダラダラと垂れ流して絶命していた。
「だ、大丈夫―――?」
「ふ、ふげぁ!!ポギ!」
緑の小人は涙目でこちらを見つめて駆け寄ってくる。
殴られ、切りつけられた小人は、二人が動かず一人が何とか動ける状態だった。
「ッてて。太ももが痛い・・・・・・」
「あ、あの!」
茂みから一人の少女が現れた。これまたバイキングのような見てくれの服装、甲冑を着た少女―――
「そ、その傷、これで治りますっ!」
一本の小瓶を差し出される。緑の小人は警戒した目で彼女を見つめていた。
「えっ・・・あ、ありがとう」
受け取り、蓋を開けると一気に中の青い液体を飲み干す。
「んぷっ。これ酒?」
苦味を感じながらも小瓶を返す。
「あ、あの、実は―――」
事の顛末が語られる。
あの中世コスプレの二人とバイキングの彼女は仲間で、この緑の小人はゴブリンと言うらしい。言われてみるとたしかに創作物のゴブリンととても似ていた―――
近くにある村が常々乱雑かつ凶暴なゴブリン集団から襲撃を受け、彼らを雇うに到った。
ただ、目の前の彼らは比較的友好で平和的な集団らしく危険を犯して働くよりも平和主義のゴブリンを一方的になぶり殺し証拠を持って行き報酬を頂くという魂胆らしかった。
「でも、私は反対しました―――」
この言葉通りバイキングコスプレの少女、リルと名乗った彼女はこの行為に反対し、途中で離反。影から二人のクソ野郎とゴブリンを見守っていたらしい・・・・・・
「っん、そういえば足の痛みが消えたような」
左足を見やると服は敗れていないが血の滲んだ太もも部分に触れる。
全く痛くもなく、肌の感触もあった。
「すごい!こんな薬があったなんてね」
「ポーションと言います」
ふむふむと私は頷く。ただ、副作用とかで大変なことにならないといいけれど。
「その、とりあえず場所を変えませんか?時間ももう遅いですから」
◆◆◆
「いらっしゃい」
古くさいを通り越して最早欲に言う「中世ヨーロッパ」のど田舎と言ったような小さな村の一角、読めない文字の看板を玄関に吊るした二階建ての木造建築にリルと大きな木箱(の中に入ったゴブリン二人)・・・・・・
「お姉さん、独特な格好だな。都会じゃ流行ってんのかい?」
白い無精髭を生やした中年の男性が、受付のカウンターに立っていた。
「いいえ、彼女はその―――異国、から来たらしく。その地域独特の服装だそうです」
あながち間違っていないリルのフォローに目配せし、無言で感謝を伝える。
「ミアさん、同室で構いませんか?」
「ええ、ごめんなさい。私が無一文のせいで」
「め、滅相もないですよッ!おじさん、ふた―――三人部屋空いてますか?」
そう聞くと男は後ろの壁にかけられた板一瞬だけ見やる。
「空いてるも何もガラガラだよ。2レニと銅貨7枚だ」
リルは布の袋から紙の紙幣2枚と銅製に見える円形の通貨7枚を男に渡す・・・・・・少なくともここの通貨は紙の紙幣と銅貨と呼ばれるコインが混在しているらしい。
「その右の廊下突き当たりにある105の部屋を使ってくれ」
了承すると、私とリル二人がかりで木箱を持ち上げて部屋へ向かって行く。その様子を見る店番の男はなんとも怪訝そうな表情であった―――
「感謝のしようも無いわリル。ありがとう」
「いえ、お気になさらないでください。ゴブリンさん方は?」
「ゴブリン」という言葉を理解しているのか、反応して木箱から出てくる。
「ぶや!」
「ゴブリンって名前あるのかしら?」
「君!名前はある?」
指を指したゴブリンは頭を傾げる。
「ぴぃ?」
「ゴブリンの世界には、独自の対話方法があるそうです。確か――――あなたを指す時は」
「ぷ、ぷいや!」
少女が発するとは思えない言葉に微笑みが零れる。
「は、恥ずかしぃです!」
「ぶぎ!ぶぃや!」
ぷいや、と言われた方のゴブリンは両手を上げている。
「じゃあ名前つけようか。君は、そう―――ゴブピイ!ぷいや、ゴブピイ!」
「ぶぃや!ぶぃや!」
「な、なんとも独特なネーミングセンスです、ね」
ついつい顔を隠したくなる――――けど、本人は喜んでいるような反応だ。
「こっちは、リルが名前を付けてあげて」
「えっ、私ですか・・・・・・」
「び!りゃ!」
「び、りゃ・・・びりや、ビリヤ―――ぷいや、ビリヤ!」
「びぃりや!ぷぃや!ぶぃや!」
これで一人称が決まり、呼ぶ時に便利になった。
これから一晩、寝る間を惜しんで談義――――と言うよりも一方的な質疑に対する応答をする事になるとは、リルは考えても居なかった。
◆◆◆
「この世界にまだ銃器は現れてないってわけね」
「正確にはそうと言えないかもしれません。東方のとある国家では爆発を用意たボウガンがあると風に聞いたことがあります」
「成程ね」
既に日は登り、ゴブリンは熟睡の最中であった。
「何はともあれまずは金を稼がないとね。少し寝たらそのギルドとやらへ向かいましょう」
こうして朝まで続いた会話は終わり、二人ともクタクタの中床に着いた。




