戦争、それから異世界
―――2035年、地球―――
2020年に勃発したクリミア半島を巡るロシア、ウクライナ間の紛争はやがて激化し本格侵攻へと発展・・・・・・泥沼の戦闘へと身を投じていたロシア連邦は度重なる政治的失敗を要因とし、中華人民共和国から支援を受けた極左組織「新ロシア革命赤軍」による蜂起から成る内戦は約二年続いた。
やがて彼ら革命赤軍が内線に勝利すると「新ソビエト人民連邦」として成立した。
極東では中華人民共和国の拡大政策は拡大していき、急速な経済成長と共に軍事力はたった3、40年程でアメリカ合衆国と同等の戦力を保持するに至った。
「新ソ連」と中国はかつてよりも親密な関係となり、両国間の軍事力と野心を前に世界は再度冷戦へと身を没した。
2034年、度重なる新ソ連による旧ソ連構成国への侵攻はNATOによる本格的な軍事介入に発展―――それに呼応して、ヨーロッパへの電撃的な進撃が始まった。
そして2035年現在、中華人民共和国は中華民国こと台湾と日本への攻撃を開始。同時に北朝鮮は韓国主要都市へのミサイルにロケット攻撃、砲撃と共に38度線を越え侵攻を開始した。
2035年 9月13日 日本、宮古島
在日米軍基地は臨戦状態にあり、本土から派兵された海兵隊一個小隊が地対艦、地対空ミサイルの警備と島の防衛に従事していた。その小隊の中に、一人の海兵隊員が居た―――
「バカみてぇにあちぃぜ・・・」
コンクリートでいかにも熱を発している滑走路を眺めながら、緑を基調としたグリーンマーパットと呼ばれる迷彩服の袖をまくる分隊長を傍らに右腕でおでこの汗を拭う。
「こんな暑い日にクソちっぽけな島でクソみてぇな中国のクソを警戒してなきゃいけねぇなんて貧乏くじにも程があるぜ」
マークスマンの暴言交じりな戯言を聞き流しながら宮古島の中古品店で購入したラジオを聞く。
『ヨーロッパでは、新ソ連軍の勢いが増しており、ワルシャワ陥落から三週間にしてドイツ国境に近付いています。アジアでは、台湾、台北と高尾市で苛烈な市街地戦が続いています。今朝未明には―――』
「日本語のラジオなんて分からないだろ?」
軽機関銃を引っさげた同期は毎度この質問を投げかけてくる。
「ふふっ。たく、いつもいつもルシールは聞いてくるのね。何度も言うけど言語勉強だって。現地の日本人と話すにはうってつけでしょ?」
「そんな簡単に覚えられるとは思わないけどなぁ」
地面の芝生が風で揺れる―――遠くに戦闘機らしき機影が飛行場へと向かっているのが見えた。
「やらないよりまし」
「勤勉だなぁ」
「言っとくとルシールのヤツはミア、お前が辞めねぇように毎日聞いてんだよ」
マークスマンは口を挟んでくるが、それにほくそ笑む。
「そうなんだルシール、ふふっ。戦争が終わったらビール一杯奢るわ」
「これで戦後の奢りは二本め―――」
耳障りで不快な音が辺りに響き渡る。
ジェット機のエンジン音、それに交じって独特な轟音が近付いてくる。
「なん―――」
あたりの建物のガラスが軒並み割れ、一瞬にして超低空から侵入してきた黒い物体が突き抜けていく。
「クソチャイナのJ-35だ!!たんまり随伴の無人機連れてやがるぞ!!」
着陸仕掛けていた航空自衛隊のF-15が爆発しながら飛行場のターミナルを掠め、別の建物に突っ込んだ。
「MANPADS持ってこい!早くしろ!!」
軽機関銃手のルシールは武器を置いて走り出した。
そこに無人機がロケットを放った。弾頭が一瞬で地面をたたき、爆散。
「ミアァ!!ルシーール!!!」
「衛生兵は!?」
おでこを伝って流れ落ちる血を右手で拭い、膝立ちで呆然と空を見やる。遥か高空で黒い粒が飛び交っている。そして、その視界を幾つもの白線が埋めつくして行った―――
◆◆◆
「う、うぅ・・・・・・」
重い瞼を何とか気合いで開けた私は全力で立ち上がる。
「何なのこれ」
壁一面が真っ白で、一箇所の傷以外全てがホコリやシミ一つない大理石の様な壁の中。
「PLAの尋問室かなんか―――?」
「よっ、お嬢ちゃん。大丈夫?」
軽快そうに心配する声の主は、尋問官とは程遠かった。
真っ白なドレスに似た服装の、金髪で長髪の白人―――その後ろに控える銀一色の仮面を被った二人の男女・・・・・・
「ここ、は?」
「詳しい事は省くけど、言わばあの世とこの世の狭間。天界的なやつよ。まあ話半分で聞きなさいな」
「自己紹介は無し。あの亀裂、あれのせいですこーし世界がバグっちゃったの。だからあなたは死に、代わりに別の世界へ行くことになった」
「はあ・・・・・・?」
右後ろの仮面の男が長方形の箱を金髪に手渡す。
「要は私ら最低最悪な神様のしくじりであなたは死んで、代わりに別の世界へ転移する。重要なのは亀裂が何か分かっていない事なの」
「死神連中のイタズラか、それともほかの何かが要因なのか―――詳しい事は分からないけど」
怒涛の一人語りを前に、固まってしまった。
「あなたにとって最も重要なのはね、その亀裂を埋めること。そうすればあなたは元の世界へ戻ることも出来る。無論、留まることもできるけどね」
「それじゃ、そういう事で〜。行ってらっしゃーい」
「ま、まっ―――」
制止を無視して箱をいじくるイカれた女―――気がつくと視界は眩すぎる光に包まれていた。
◆◆◆
「なんなの!?」
飛び起きると、そこは濃い茂みの中だった。
何を、何が、何なのか、全く私の理解が追いつかない。
「格好は―――?」
体を見下ろすと、飛行場の時と変わらない迷彩のBDUにボディーアーマー。レッグホルスターにはSIG社のM17拳銃が入っているのも見て取れた。
「とりあえず、M5のマガジンが差しっぱなしね。外さなきゃ」
傍らに落ちているM5ライフルに左手を伸ばす。ハンドガードに左手を伸ばした時に違和感に気づいた。
「なんだろ、これ」
左の掌側の手の付け根に着いた白い円形の―――シールのようなそれを摘む。
「わっ」
突然視界の右側に白いユーザーインターフェイスの様なものが現れる。まるきりゲームのようなそのUIは、縦にいくつか選択肢が並んでいた。
「す、すぺしゃるめにゅー?」
安い開発費で作られたようなUIのど真ん中の選択肢には、そう書かれている。
私は早速そのボタンを押していた―――
「お、おおお?」
ついつい変な声が出てしまうが、そこにはUIが変わり、視界全体に広がった選択肢にはカテゴリーと書かれた一列と、その下に広がる銃器の数々。
丁寧に写真まで貼られたその一覧の中には、見慣れたAK-47が点在している。なかなか面倒な事に、その左にはAKM、56式、M70―――etcと言ったようにAK-47と派生型や各国生産型が徒党を組んで存在している様に、つい笑いがでてしまう。
「も、もう全部AK47でカテゴリーに移動したら?」
そう呟いた矢先に、見慣れた虫眼鏡マークが着いたタブを見つけた。
「押してみよっと」
指で押すと、視界下にキーボードが現れた。
「んー」
少しばかり考えてからキーボードをタイプ―――
▲M1911▲
Enterを押したらコルト製の拳銃、M1911が表示された。
「とりあえず、押してみようかな」
そう思うと同時にクリック。更にUIが現れるが無視して「Spawn」をクリック―――
空中に、光と共に現れるガバメント。
「おっと」
すかさず右手でキャッチすると、ずっしりとした重みと感触がしっかりと伝わってきた。
「弾は45ACPだったかな」
そう思った矢先だった。
「ボギャ」
目の前に現れた一つの物体―――緑の小人のようなそれは、人とは思えないような存在でありながら頭、胴体、手足があり明確な人型の生き物であった―――




