天才は屋根裏とランドセルで量子力学を説き、星座の見える夏祭り兼体育祭でポーカーフェイスを崩さない女助手に「チェックメイト」と言いながらひまわりの絵のおふだを貼り付け、えんぴつの芯の味の缶コーヒーを飲む
なろうラジオ大賞4参加作品。13キーワードを全て盛り込んでみました。
「屋根裏部屋は、いざ登って確認してみないと何があるかわからないだろう? これはランドセルの中身でも同じ話だ」
この高校の体育祭は少し他の学校とは違う。
なぜか夏祭りと兼用で、町の人たちが学校の校庭にこぞってやって来るのだ。夏祭りも兼ねているからして体育祭は真夜中に行われる。今はちょうど、中学生のダンスが終わって休んでいるところだった。
そんな休憩時間に、星座が輝く夜空の下で話している二人の人物がいた。
片方は学校一の天才児なのに……天才児だからこそ友人が皆無の変人少年。そしてもう一人は彼の同級生であり、勝手に彼から助手と呼ばれている女子生徒である。
彼女自身、なぜそんな呼び方をされるかはわからない。天才少年を手伝ったことなど一度もないのだ。やたらと話しかけてくる気持ち悪い奴、それが彼女から見た天才少年の印象であった。
――ともかく。
「どうして突然量子力学の話なんてするんですか?」
「あの星空を見てふと思ったんだ。あの星々はすでに存在していないかも知れないが存在しているかも知れない。それはいわばシュレディンガーの猫と同義なのではないか、とね」
彼の言いたいことは全然わからないが、わざわざ質問するつもりも起こらない。
なので彼女は心の中だけでため息を吐いた。
「今、『なんだこいつ』って思ったな?」
「思ってません」
女子生徒は至って平凡な少女だが、ポーカーフェイスだけには自信がある。
心から笑った時ですら無表情と言われるくらいだ。だから少し驚いた。
「僕は天才だからね。君の心は全部お見通しなんだよ」
そう言いながら少年がニヤリと笑う。
そして突如、女子生徒の額にひまわりが描かれた謎のおふだを貼り付けた。
「チェックメイト!」
「ふざけないでください。何なんです、これ?」
「君がひまわりみたいな笑顔が見たくて願いを込めたんだよ。……ほら喉が渇いたろう。僕が作った缶コーヒーでも飲みなよ、助手くん」
「ですから私は助手じゃないですって。まあコーヒーは頂きますけど」
天才少年が発明したのだというそれを女子生徒は受け取り、飲む。
不味い。えんぴつの芯の味がした。
同じものを飲んだ天才少年が言った。
「失敗か。天才には失敗がつきものだからな」
「はぁ。早く体育祭に戻りますよ。次はヨーヨー釣りなんですから」
缶コーヒーを飲み終えた女子生徒は立ち上がる。
「助手くんはせっかちだなぁ」と笑いながら、少年は彼女と共に祭り会場へ向かったのだった。