7話 散歩
「最近あったかいねクリーム」
人々が行き交う道を、1人の少女が歩いていた。ホワイトブロンドの髪を後ろに縛り、可愛らしいランニングウェアで身を包んでいる彼女は、ご機嫌な様子で自分の前を歩く犬に話しかけている。
クリーム、と呼ばれたその犬は飼い主の方を振り返る。
「今日はお風呂の日だね! 楽しみだなあ」
大きさなブルーの目を輝かせて歩く少女の名前は滝崎実歩。彼女は日課であるペットのクリームの散歩をしている最中であった。
にこにこと笑顔で犬を散歩させる滝崎。恐ろしく整った顔、きめ細かい綺麗な肌。すらりと伸びた手足と、モデルのような体型。たまたま通りがかった男子高校生が、滝崎を目で追う。
そんな視線には気づいた様子もない滝崎は、どんどんと歩いていく。
いつも通りの散歩コースを歩く、いつも通りの時間。
しかし、今日は違った。
「ガルルルル、、、」
突然、クリームが牙を剥いて唸り出したのだ。
「クリーム? どうしたの?」
「ガルルルル」
突然の愛犬の変貌に、狼狽える滝崎。様子を見ようと愛犬の目線の高さにしゃがもうとした瞬間、
「ガウッ!」
突然、一際大きく吠えた。そして、猛スピードで走り出したのだった。
「え!? ちょっと待って! クリーム!」
突然の出来事で手からリードが離れてしまった。そのままクリームは飼い主の静止が耳に入っていないのか、一気に走る。
滝崎は咄嗟に追いかけるが犬の脚力の方が上である。どんどん距離を離されていく。通行人がリードに繋がれていない犬にギョッとして道を逸れていくのが見えた。
「すいません! ごめんなさい。うちの犬なんです!すいません!」
大声で周囲に謝罪しながら、必死に追いかける滝崎。しかし追いつけない。
「クリーム!」
普通に走っては追いつけない。しかし、マナで肉体強化をすれば話は変わる。だが滝崎はまだマナの扱いが完璧ではない。もし加減を間違えて通行人と激突でもすれば大事故である。第一、公共の場での許可のないマナの使用は違法である。
「どうしよう、どうしよう!!」
迷っているうちに、クリームはどこかの角を曲がったらしく視界から消えてしまっていた。
「クリーム! どこ? クリーム!」
今まではこんなことなかった。
クリームが曲がったと思われる先は細い裏路地に繋がっていて、入り組んでいた。
--完全に見失った。
早く見つけなければ、いやお母さんに電話をしなければ。ごめんなさいお母さん。
--猫の不審死が続いています。
滝崎の脳裏を、担任の言葉がよぎる。
大丈夫。狙われているのは猫だから。大丈夫。大丈夫。
自分に言い聞かせながら、震える手でスマホを操作する滝崎。すると
「おい、やっぱりそうだ。滝崎じゃねえか」
突然名前を呼ばれて弾かれたように振り向いた。
「き、桐生くん? それに皇くんも」
そこにはクラスメイトの男子2人がいた。
「何してんだオマエ、でっけえ声で喚き散らして、何かあったのか」
皇がカツアゲのような口調で滝崎に詰め寄る。側から見れば、灰色の髪の男と、赤髪の男に絡まれる少女という構図である。
「あの!その、クリームが、犬が逃げちゃって、見つからなくて。2人はどうしてここに」
かなり慌てているようで要領を得ない説明になる。
皇と桐生は顔を見合わせると、
「つまりなんだ、ペットが突然どっか行っちまったってことか?」
「俺らはラーメン食いに行ってきた帰りだ。そこへギャーギャー言ってる奴がいたから見にきたらこれだ」
桐生と皇がそれぞれ返答する。滝崎はうん、うんと首を縦に振り、裏路地を指さした。
「あっちに行ったと思うんだけど、もうわかんなくて」
「なるほど。合点承知! ならいっちょ犬探しと行こうぜ、圭吾」
「ったくしょーがねぇな。おら、さっさと追うぞ、この先だな」
事態を把握した2人は、早速協力を申し出た。すでに走り出してやる気満々である。
「あ、ありがとう2人とも。でも--」
「いいってことよ!困った時はお互い様だ!」
何か言いたげな滝崎を親指を立てて遮る桐生。きらり、という効果音が聞こえてくるような笑顔である。
「ごちゃごちゃ言ってねえで犬の特徴を言え!」
「ありがとう。必ずお礼はするから! 犬は白のゴールデンレトリバーで、名前はクリーム」
「白のでけえ奴だな。ならすぐに見つかりそうだ。オラいくぞ!」