3話 発見
透が連絡してから1分も経たないうちに太田陽介は現場にやってきた。
「これは酷いね」
そして、透のすぐ目の前に横たわっている毛玉のような物体に目を向け、顔をしかめた。
「特に目立った外傷はない。ハエもたかってないし、殺されてからそう時間が経っていないんだろう」
近くの切り株を椅子代わりにしながら、透が言う。
「そうだね。一応聞いておくけど、周囲に人の気配はなかったかい」
「無かった。そこの足跡らしきもの以外、手掛かりになりそうなものは何もなかった」
もっとも、陽介が到着する前に不要な足跡を残したくないと考えた透は、なるべく歩かずに待っていた為、広範囲を捜索したわけではなかった。
その旨を陽介に伝えると、了解、と一言返事をして、キョロキョロとあたりに目を向け始めた。
「透の言う通り、犯人らしき足跡が残っているね。特に痕跡を消そうとする意思も感じられない」
現場からは、犯人がつけたと思われる足跡がわずかに残っていて、ちょうど透が来た方角と反対側に続いていた。
もっとも、足跡と言うにはとてもわかりずらく、はっきりと靴跡が残っているわけではなかった。そのわずかな痕跡を当たり前のように発見する2人。
「少しこの足跡を辿ってくる。透は警察への通報と、その子達を見張っていてくれ」
その子達、そう言いながら地面に横たわる猫へ目をやる陽介。複数形で表現したように、3匹の亡骸が無造作に置かれている。
こんな現場に一人で残って見張りをしていろ、というのは普通の高校生には酷な指示だが、透は片手を上げて了解の意を示すだけであった。
「酷いことするな」
その亡骸を見てため息をつく透。本当はすぐに墓でも掘ってやって埋葬したいところだが、警察が来るまでは下手に触るわけにはいかない。透はポケットからスマートフォンを取り出した。
警察が到着するよりも一足早く、足跡を辿っていた陽介が戻ってきた。
「この足跡の先は住宅街になっていた。コンクリートの地面からは足取りが追えない」
「そうか。足跡からは何か分かったか」
「まず犯人は1人だね。推測される靴のサイズや、足跡の深さから察するに割と大柄な男性だね」
「残留マナはあったか」
「ない。痕跡を消したというより、マナを使用しなかったんだろう。しかしここまでマナが残留していないとすると、適応者の可能性が高い」
「来た足跡も、戻る足跡もそっちの方向か」
「だね。南の方角から真っ直ぐにこの場所まで来て、そのまま来た道を引き返している。おそらくその子達をどこからか攫ってきて、ここまで来たんだろう」
「そうか」
「今まではどこから猫を捕まえてきているのか、又は見つけたその場で殺しているのかわからなかったけど、今回はわかりそうだね」
「そうだな」
覇気なく2人が目を落としたそこには、首輪をつけている猫の亡骸があった。
程なくして警察が到着した。
「おう、何回も悪いなお前ら」
制服を着た警官たちの中から、ワイシャツをだらしなく着た中年の男が透に近づいてきた。
「立花さん。ご苦労様です」
立花というこの男は警察関係者である。立場上、透や陽介とは面識があった。透も軽く頭を下げながら挨拶を返す。
「しっかし胸糞悪ぃ光景だな、オイ」
立花は地面の亡骸に目を向けると、吐き捨てるように言った。そのまま地面に両手をつき、はいつくつくばるように亡骸の状態を調べ始めた。
透はその行動について何か反応するようなことはなく、チラリと奥に目をやった。
手帳を片手に陽介に話しかけているスーツ姿の男がいた。立花と比べるとかなり若い。
「ああ、あれは俺の新しい相棒だ。よかったら後で挨拶してやってくれや」
透が視線を向けたことにどうやって気がついたのか、犬のような体勢のまま言う立花。
「はい。そうさせていただきます」
ぺこりと頭を下げ、透はその場を離れた。
その後は立花の後輩である佐々木という男に挨拶をした後、発見時の様子など軽く事情を説明した後家路に着いた。