プロローグ
異能だとか超能力だとかが、フィクションの中だけの話だと思われていた時代があったらしい。今から遡ること405年、日本時間の2020年4月4日。この日を境に人々の生活は大きく変化した。
始まりは太平洋沖での原因不明の爆発だった。その爆発を中心に、各地で謎のエネルギーを検出。それに気がついた某国海軍が異常を察知、原因究明に乗り出したが謎は深まるばかりだった。どこかの国が放った兵器か、はたまた宇宙からの飛来物か、何も分からなかった。原因不明の爆発の情報は日本の自衛隊にも共有されたが、極秘情報という扱いにされていたため、一般市民へは公開されなかった。
しかしこの事実はすぐに日本国民のみならず、全世界の人々の知るところとなった。爆心地から検出された未知のエネルギーは瞬く間に地球全土に広がり、まるで何かと共鳴するかのように影響を及ぼし始めたのだ。
世界各地でポルターガイストのような超常現象と呼ぶべきものが次々と報告されるようになり、一部の電子機器にも影響が出たり体調不良者が続出したりと世界は大騒ぎになる。爆発の翌日5日には政府が情報を開示、原因を太平洋沖の爆発と断定した。
爆発から約1年後、異変はより顕著になる。これまでは体調不良や電子機器の誤動作などが主な異常として報告されていたが、この時期あたりから動物の異変が報告されるようになる。口から火を噴く巨大な四足獣、人語を話す猿など、これまでの常識、生物学をあざ笑うかのような怪物達の目撃情報が後を絶たなかった。人々はその怪物を「魔物」と呼んだ。
それからさらに4年後の2025年。ついには人間に異変が起こった。怪力を出せるようになったと言う者、レーザービームが出るようになったと匿名掲示板に書き込む者。超常的な力を使えるようになったと主張する者が現れたのだ。それらは都市伝説として、しかし魔物の前例から妙な説得力を伴って、急激に拡散されていった。
それからまもなくして動画サイトやSNSなどで途端に騒がれるようになり、決定打となったのは大手動画サイトに投稿された「手から火がでるようになった」という動画であった。その動画の投稿主は数十万人のチャンネル登録者を抱えるゲーム実況者だった。動画では投稿者と見られる男性が指から火を出す様子が映されており、そのはっきりと見た目にわかる異常現象に大騒ぎとなった。
指に火を灯す程度ならばマジックショーでも見られるし、何よりCG技術が発達していた時代であるため、そのような動画を作ることは容易である。CGやトリックであると疑う声も多かったが、この投稿主が積極的に生配信やテレビに出演し、この指に火を灯す現象を披露したため、疑いの声は徐々に鎮火する。
また、このような目に見えてわかる超常現象はこの動画投稿者以外でも世界で何人も発見され、各国の研究者や医師などが調査に身を乗り出し、同年の5月にはWHOが超能力を認めた。当時は「疾病」として各国政府が対応する事態となった。
世界の研究機関はこの事態を引き起こしている原因を謎の爆発後から検出されるようになった未知のエネルギーであるとし、このエネルギーを太平洋の島々で信仰されていた原子宗教から単語を引用し、「マナ」と名付けた。