入学準備
デビュタントの影響は凄まじかった。
釣り書きが山のように届き、公爵がすべてに断りの返事を出す。
夜会や茶会の招待状はその倍は届いていてララと母親付きの侍女も手伝って断りの返事を出す日常だった。
「みんな大好き次期公爵の美貌の令嬢なんてゾッとしないわ。」
思わず愚痴がこぼれてしまう。
「お嬢さま、甘いです。
現世に顕現した女神さまに跪かない人間などいないのですよ。」
作業している侍女たちとクロエが頷く。
「ララの崇拝が怖い!」
楽しく笑いあっていたが本人以外は本気だった。
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「はあ、学園にはディオン王太子殿下が在学中なのよね。」
「被るのは1年だけです。なんとかなりますよ。」
「そうはいってもね。
私のデビュタントの噂を聞いて、それまで進めていた隣国の王女との婚約を白紙に戻したというじゃない。
危険な香りしかしないわ。」
「お嬢さまは私たちが護りとおします。ご心配には及びません。」
「クロエがそう言ってくれると心強いわ。ありがとう。」
「もう2度と悲しい思いはさせないと誓いましたから。」
「それは言わない約束よ。」
(王子はしようがない。しかしヒロインは?
いや、まあ自分がヒロインなのは自覚がある。
あるが、乙女ゲームの場合はこんなバグったような美人がヒロインなんてことはないはず。
攻略対象の王子から悪役令嬢が逃げ回っているような状況では、いくらヒロインがいても関係ないようではあるけど…)
王族さえ御せれば身分的にシャルロットを従わせられる者はいない。
いざとなったら国王陛下にお骨おりいただければ解決するだろうがあくまでも最終手段。
というか他人に任せていてはこの先の安全は心許ない。
(美人薄命とはよくいったものね…)
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「ララの目から見てディオン王太子殿下はどんな方だった?」
ララ・バザンは身分的には子爵家の令嬢であった。
もちろん今では名前だけで子爵家とのややこしいアレコレは公爵家がすべて整理済みである。
なので5年前には公爵家からデビュタントを済ませ、2年前に貴族学園を卒業していたのだ。
王太子はララの後輩にあたり、学園での王太子を知っていた。
「一言でいえば…俺様ですね。」
「ああ…うん、分かったわ。全部。ありがとう。」
(テンプレ王子さまか。避け続けても興味が深まるだけよね。どうしよう…)
学園ではまったく接点のなかったララにデビュタント後から王太子の同級の側近から何度か接触があったのだ。
クロエも街中で何者かに跡をつけられたことがあった。
シャルロットは相変わらず邸内で完結した生活を送っているので周辺から攻めはじめたようだ。
すでに調査が始まっていると見ていいだろう。
策を練るにも情報が足りないので臨機応変に対処出来るようにしておかないとね。