お披露目
シャルロットは15才。
産まれてこのかた公爵家のタウンハウスから外に出たことはなかった。
本人にはなんの不満もない。
常軌を逸した美貌の厄介さは元男として誰よりも理解していたし、身の回りには美しい女性しかいない天国である。
しかし家族にも使用人にも不憫に思われていることもまた分かっていた。
この国では貴族の子女は年一回王宮で開催されるデビュタントの舞踏会をもって成人とされる。
それが15の歳。今年である。
デビュタント後は貴族の義務教育である貴族学園に3年間通うことになる。
そう、領地に引き篭もってララやクロエとの甘々生活の前にこの人を狂わせること必定の美貌を3年間、世間に晒さなければならないのだ。
(面倒な…)
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デビュタントのドレスを仕立てるために呼ばれたデザイナー。
顔を合わせた瞬間に卒倒し、回復したのち異常なテンションでとめどなく溢れるアイデアを聞かされながらの採寸に疲弊しつつ貼り付けた笑顔で乗りきった後、ミューズがどうとか叫びながらクロエに引きずられて出ていったところだ。
「先が思いやられるわね。」
「お嬢さまのせいではございません。その美貌が悪いのでございます。」
「あら、ララには気に入ってもらえていると思っていたわ。」
「みだりに衆生にご尊顔を晒されたくはございませんので。」
「嫉妬してくれたのね。嬉しいわ。」
「もったいないお言葉でございます。」
(20才の童顔巨乳の照れた顔、可愛いわ。)
クロエが戻ってきて控える。
「クロエもご苦労さまでした。」
「あのような不遜な輩には制裁が必要かもしれません。」
「いいのよ。あれくらいは今後、当たり前になるのでしょう。慣れなくてはね。」
「御意に。」
「大袈裟ね。王さまではないのだから。」
(22才の強めのスレンダー美人、最高だわ。)
女神の微笑みに隠されたイヤラシイ思考は誰も知ることはない。
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「アズナヴール公爵様及びご嫡子シャルロット様、ご入場!」
王宮の舞踏会場に案内の声が響き渡ると笑いさんざめく場内が静寂に包まれる。
幻の公爵家令嬢。
それがシャルロットの社交会での二つ名となっていた。
病弱なのか両親に似ず醜い容貌なのか。
言外に仄めかされる侮蔑があった。
父のエスコートで社交会デビューの場に踏みこんだ娘は二つの驚きを持って迎えられた。
「嫡子って言ったか?女が公爵になる?」
「もの凄い美貌ね!あそこまでだと嫉妬心もわかないわ。」
ドレスやアクセサリー、所作やらなにやら全てが見られ番付けされるような場にも関わらず、皆の興味は身分と美貌2点のみに集中した。
身分の低いものから高いものへ挨拶に出向くのがマナーである。
公爵家は王家に次ぎ国で2番目の家柄であるので、真っ直ぐに国王陛下の元へ向かった。
人垣が別れ直線距離で歩みを進め王の前に立つ。
「お招き頂きましてありがとうございます。アズナヴール公爵家嫡子シャルロットにございます。お見知りおき下さいませ。」
国王が頷きながら返す。
「やあ、とうとう籠の鳥も飛び立つ時がきたか。期待しているよ。」
「ありがたきお言葉を頂きまして光栄にございます。」
隣の王妃が話しかける。
「まあ、あなたずいぶんとお綺麗なのね!羨ましいわ。」
「お目汚しいたしまして申し訳ありません。
産まれて初めて邸の外に出たため実はよく分かっておりません。
これからもご指導の程よろしくおねがいします。」
なかなかにパンチの効いたやりとりであった。
誰も否定出来ないような美貌を褒められてどう返すのか。
王妃の言葉を肯定してしまえば王妃よりも上となり不遜な発言になってしまう。
ハッキリ否定するのは白々しいおべんちゃらとして軽侮ととられかねない。
それをさらりと世間知らずゆえ教えを乞うかたちに受け流したのを見た社交会の狐や狸たちも舌を巻いた。
王妃も満足そうに頷く。これくらいの口撃を受け流せないようでは公爵位は継げないだろう。
その後、貴族たちから様々な仕掛けの施された挨拶を軽く受け流し父とダンスを1曲踊ってそのまま退出した。
(ふわー社交は疲れるわー。早く帰ってあの娘たちに癒やしてもらいたい。)