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公爵の悩み

あれから7年の時が流れ、アズナヴール公爵は王宮を歩く。

王の執務室に向かいながら溜息をついていた。


(もうぶっちゃけるしかないか…)


侍従に取り次いでもらい入室する。


「アズナヴール公爵、参上いたしました。」

「うむ、いつも通りでよい。公爵、楽にしたまえ。」


王とは歳が近い。

親類であり学友でもある。

親友といってもいい間柄であった。


「打診していたドミニクの娘と王子の婚約についてだが意見を聞かせてもらおう。」

「申し訳ありませんが、お受けすることは出来ません、陛下。」

「理由を聞かせてもらうぞ。」


最高権力者の若干怒気を孕んだ質問にも平然と応える。


「美しすぎるのです。陛下、異常なほど。

傾国の美女と言っても言い過ぎではない。

王子殿下たちの間で娘を巡る争いがおこるでしょう。確実に!」

「ほう…では確認せねばなるまい。連れてこれるか?」

「恐れながら人目に触れるのは憚られます。

可能ならばお忍びで我が邸へお越し下さい。」

「ふっ、言うなオマエ。王に見たけりゃ自分から見に来いだと?

いいよ、分かった。息抜きもたまには必要だ。気遣い感謝する。」

「ありがたき「そういうのいいから」」


---


数日後、近衛騎士に囲まれた紋章の無い、けれど豪奢な作りの馬車がアズナヴール公爵のタウンハウスに入っていった。

お忍びとはいってもこの場合は「公務ではない」という意味であるので秘密でもなんでもない。


「ようこそお越しくださいました、陛下。」


公爵夫妻が出迎え、王族専用に用意されている応接室へと案内する。

定型の挨拶が済み茶菓子が供された後、


「して、娘は?」

「迎えを行かせておりますのでしばしお待ちを。」


少しして控えていたセバスチャンが公爵にささやく。


「準備が整ったようです。シャルロットをこちらへ。」


ベールで顔を隠した娘が部屋に迎え入れられ、綺麗なカーテシーをして挨拶する。

邸内であっても不用意に男の目に触れさせないために移動中はベールで顔を隠す決まりである。


「アズナヴール公爵家長女、シャルロットです。お初にお目にかかります。どうぞよしなに。」

「おお、そちがドミニクの娘のシャルロットか。会いたかったぞ。

どれ、顔を見せておくれ。」

「はい」


おもむろにベールを外すシャルロット。


「なんと!」


感嘆とともに固まり声も出ない王。


「これは…なるほどこれは無理もない。しかしこれほどとは…」


考えこむ王。


「で、どうするつもりだ?相手が王子でなくとも争いは避けられまい?」

「この娘の婚姻については…正直悩んでおります。」


夫妻は顔を伏せる。


「あの、よろしいでしょうか?」


シャルロットが発言を求める。


「なんだね?」


王が許可を与える。


「私は生涯結婚したくありません。

公爵位を私自身が継ぎたいのです。

そのための勉強をしています。

どうかお願いします。」


美しい娘の必死な願いに一同驚くとともに考えこんだ。


「女性が爵位を継いだ前例もないではないが…

次代はどうするのだ?」

「私が王家に嫁ぐことになったとしましょう。

その場合、公爵家は誰が?養子を迎えますよね?

同じことでは?」

「なるほどなるほど!あい分かった。認めよう。この国の平和のためにな。

公爵もそれでよいな?」

「はあ、オマエはそんなことを考えていたのか。

悔しいがそれが最善だろうな。分かりました陛下。御意に。」


張り詰めた空気が和らいだところで、


「しかし賢い娘だ。才色兼備か。いや、かなり行き過ぎているが。

まあ、その美貌を使う野心を持たなかったことがなによりの幸いだ。

公爵領の経営は楽ではないぞ。

この国の経済を支える大きな柱であるからな。励むのだ。期待しておる。」

「ありがたきお言葉を頂き身に余る幸せにございます。」

「如才ないな。王にものおじせず具申するその度胸も子どもには思えぬ。

よい娘を授かったなドミニク。さあ飲もうではないか。夫人とシャルロットは下がってよいぞ。」


退出して後、母を抱きしめる。


「ありがとう、お母さま。」


笑顔で頷く公爵夫人。

夫人には2年前に相談していたのだ。

結婚しない、いや、男性に興味がないことをカミングアウトした時には流石に驚かれたが、かえってこの娘には良かったかもしれないと思い直し受け入れてくれた。

それから家庭教師(すべて女性)をつけられて学びはじめ、1年前から母の領地経営の補佐もしていた。


自室に戻ってソファにだらしなくもたれかかる。


「やり切った…」

「お疲れ様でございます。」


さすがに緊張した。ララが侍りクロエが控える。

この2人以外には見せない女神の素の表情に2人とも密かに至福を感じているのは悟られてない。


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