俺の天使
晩餐会から3ヶ月が過ぎた。
バザン夫人は公には病死ということになっていた。
バザン子爵には都合がよかったようだ。
数年前から平民の愛人のところに入り浸りで子まで成していたのだ。
嫉妬に狂う夫人は面倒でしかなかった。
アズナヴール公爵家には申し訳なかったが亡き妻が秘密裏に獄死したのはむしろ好都合。
あとは亡き妻との間にもうけた長女が邪魔だった。
愛人親子は事件の報せを受けて早々に子爵の邸に引き入れていたが、平民は貴族とは婚姻出来ない。
8才になる本妻の娘と愛人と7才の庶子の男児が同居する邸。
公にはなっていなくても本妻が大きな問題をおこしたことは邸内には知れ渡っていて長女は冷遇されていた。
しかも異母弟が妙に馴れ馴れしい。
派手な美人ではないが栗色の猫毛に灰色のクリクリの瞳が可愛い。
8才にして既に女性らしさが感じられる身体つきに優しげな雰囲気の癒し系貴族令嬢は平民には眩しい存在だったのだ。
入浴を覗かれたり、目覚めるといつの間にか自分のベッドに潜りこんでいた異母弟、下着が数点無くなっていたのも無関係ではないだろう。
キモチワルイ
それを知っていながら止めもしない使用人どもに女主人ヅラの愛人、実の父親まで…
ハキケガスル
もう絶望しかなかった。
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ララ・バザン。シャルロットと乳姉妹になるのだろうか。
バザン子爵が謝罪とともにアズナヴール公爵に差し出した長女。
「下働きでも将来的には愛人にでも好きに使ってくれて構わない。」
幸せな家庭を築くために体よく追い出したかたちだ。
公爵はバザン夫人を赦すつもりは毛ほどにもなかったが、子どもに罪はないと考えていた。
子爵家の事情も知っていたので表向きは謝罪を受け入れる体でララを迎えいれた。
「シャルロット、今日からお前付きの侍女になるララだよ。」
「はじめましてお嬢さま。よろしくお願いします。」
「ええ、よろしくね、ララ。ひとつしつもんしていいかしら?」
「なんなりと」
はじめて目にするこの世のものとは思えない美貌の幼女に心拍数が上がるのに戸惑いながら応える。
「あなたのかぞくについてどうおもっているの?」
その場にいたすべてのもの、ララ、公爵夫妻、クロエ、執事のセバスチャンが凍りついた。
虐待していたバザン夫人の娘が自分付きの侍女になるので当然の問いではあったが、こんなにもストレートに会った早々イキナリぶつけてくるとは…
「は、はい…コホン、なんとも思っていませんわ、お嬢さま。」
「なんとも?」
「虫ケラ以下の存在に思いなんてございません。」
「わかったわ。ありがと。あらためてよろしくね。」
微笑みながらララを受け入れたシャルロットに、それまで呼吸が止まっていた皆が一斉にホッと息をついた。
この娘はいろいろと心臓に悪い。
(うわ、まだ子どもなのにエロい身体つきしてんな。顔は癒し系なのに。
もしかして童顔巨乳か!いやードストライクすぎる。はぁ〜女に生まれたことを恨むよ。俺の天使ちゃん、よろしくな。)
(怖ッ!これ3才児の言うこと?ヤバいでしょ。
でも綺麗。もしかして天上の存在では?ドキドキが止まらないわ。鼻血出そう。
コレが毎日見られるなんて、あのババアも最後にはいい仕事したわね。)
侍女ララとの初顔合わせはこのように和やかに終了したのだった。