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みみかきようじょ

「ほれ、反対を向け」


 今度は腰の反対側。

 しかし、ふつふつと疑問が湧く。

 のじゃーさんなら俺の好奇心もやんわり受け止めてくれそうだし聞いてみるか。


「こんな密室に二人のシチュエーションなら、わざと俺の上に跨って股間を見せつけるギャルゲーみたいなサービスだってありそうなものだがな」


「やってほしいのか?」


 ややもすれば失礼な俺の台詞をさらりと流す。

 さすがは年の功。


「いや、単純に感心してる」


「ほう?」


「だって『ポールダンス』でも『納豆かけごはん』でも扇情的で男の欲望そのままのサービスじゃないか。そのくせ、この部屋だけは妙にまともだから」


「店内も別室も、一線越えないという点では変わらんよ。だからこそウケるものというのもあるしの」


「そういうものかね」


「一線越えただけでウケるなら、メイドカフェやメイドバーよりメイドキャバクラやメイドデリヘルの方がウケるはずじゃろ。じゃが現実に人気あるのは健全な店の方じゃ」


「確かになあ」


 生々しいオンナを感じたくないからメイドカフェを選ぶわけだし。

 キャバクラもデリヘルも行かない俺でも、いや俺だからか、そこはわかる。


「ただ最近えげつないことやり出すライバル店が出てきてのう……」


「ライバル店?」


「『みみかきようじょ』という店なんじゃがの」


 さっきジョージから聞いた店の名前じゃないか。


「『じゃがの』とか言われても、ロリじゃない俺が知るわけないだろうが」


 と、一応は返しておくべきだろう。

 秘密は知っていても素知らぬふりをする、これがスパイとしてのマナー。


「ジョージから聞いとらんか? 某国が背後にいるとかなんとか」


「秘密でもなんでもないじゃないか!」


「そりゃネタ元はわしじゃから」


 そんなドヤ顔してるんじゃないよ。

 呆れた……色んな意味で。


「なんで、のじゃーさんがそんな生臭い話に噛んでるんだよ」


「わしにしてみれば敵国のスパイ工作がどうだのと、平凡な一市民と無関係な世界のできごとはどうでもいい。ただ単純に目障りというだけでの」


「そりゃ、ライバル店なら目障りだろうな」


「そういう意味じゃなくて……やり方がむかつく」


「やり方?」


「あいつらは『女』そのものをウリにしとるんじゃよ。『みみかき』といえば聞こえはいいが、実際は幼女との疑似恋愛じゃ」


 キャバクラと変わらないということか。

 なんて生々しい……。


「でも一線越えたらかえってウケないと話したばかりじゃないか」


「一見してそれがウリには見えないから、客も『不埒な場所で遊んでいるのではない』と言い訳ができる。しかし二人きりの密室で膝枕してもらいながら耳をかいてもらう。それってキャバクラ以上のサービスじゃないか?」


「キャバクラって基本おさわり禁止らしいしな」


 のじゃーさんがこくりと頷く。


「おにすきは違うのか?」


「『おにすき』の幼女達は御客様みんなの幼女、つまりマスコットじゃの。『おにすき』が売っとるのは『非現実な日常』にすぎない」


「非現実な日常?」


「現実にうちの店員みたいな幼女はいないじゃろ。『ふにゃあ』とか『ほえぇ』とか」


「いや、どうだろう……」


 としか返しようがない。

 本音はもちろん違うけど。


「気を遣わなくていい。一〇歳ともなれば分別もあるし、しゃきしゃき話すわ」


「店長がそれ言ったらお終いだろ」


「いや、それでこそなんじゃ。客が愛でたいのは弱者の象徴としての蕾の様な幼女。むしろ現実から離れたところにこそニーズがある」


 なんとなくわかる気はする。

 ロリの世界はわからないが、恐らくギャルゲーやエロゲーのヒロイン達がどことなく現実離れしているのと同じなのだろう。

 これも一種の記号なのだ。

 だからこそいいとまで言ってしまうのは抵抗あるが、もし完全に生々しければ納豆かけ御飯などのサービスもきっと受け付けないだろう。


 のじゃーさんが語気を強める。


「誰しも現実から逃げたくなる時はある。そうは思わんか?」


「まあなあ……」


「そういう時は休めばいい。『おにすき』はそういう人達のオアシスになってほしい。そして少しでも抱えたストレスを和らげてほしい。サービスをわざとらしくしとるのはそういう理由じゃし、わし自身そういう思いでこの店をやっとるよ」


 優しげな口調。

 のじゃーさんも色々と苦労してきたのかな、ふとそんなことを思った。


「『みみかきようじょ』の続きを聞かせてくれないか」


「さっきの様な事をグチっとったら、ジョージが『ボクが真実を確かめてくる』と息巻いての。調べてみたら予想もしなかった話が出てきたわけじゃ。てっきり幼女同士の指名競争で枕をしとるとばかり思っとったんじゃが……」


「違うのか?」


「オーナーがやらせとる。それも人を選んで抱かせとる」


「人?」


「うちの客でもあったから具体的には言えないが……政治家に官僚に民間のおえらいさんに芸能人。それなりに社会的地位があって影響力を持つ者ばかりじゃ」


「体のいい幼女売春で人脈作りか……」


 深く掘り下げたらとんでもないスキャンダルが出てきそうだな。


 ──プルルとインターホンが鳴り、のじゃーさんが出る。


「ああ……うん、そうか。わかった」


 インターホンを戻して翻る。


「名残惜しいが、まゆと交代じゃ。仕上げはわしがやるんでの」


「仕上げ?」


「一応は病院じゃから、問診してカルテにまとめる。スタッフはみんなアルバイトでの。いついなくなるかわからんし、わしが全て把握しとかんと」


「なるほど、いってらっしゃい」


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